第26話 暴漢に襲われる
ホミンは着替えを済ませて男の子に戻り、帰途に就いた。まださっきの余韻が残っている。ジン兄貴……。優しい手のぬくもりと少し乱暴な振る舞いが、ホミンの心をとらえて離さなかった。早足で歩きながら、さっき起きたばかりのことを繰り返したどり、甘い胸の疼きに酔っていた。
夜道だが、男の格好をしているし、まだ時間も早い。しかし、考え事をして油断していた。突然後ろから走ってきた男に荷物を奪われそうになった。
(ダメ! この中には兄貴からもらった帯飾りが入ってる!)
必死で荷物をつかんでいると、男の力の方が強くてホミンは荷物を持ったまま倒れてしまった。こんなところで、命を落とすのか、それとも汚れてしまうのか、怖くて心臓が破れそうだった。絶体絶命、と思ったその時だ。
「この野郎!」
殴る音がにぶく響いた。
(兄貴!)
ジンだった!
殴られた男は地面に倒れ、うめいている。
「来い!」
ジンがホミンの手を握り、走り出した。ホミンは手を引かれるまま、一緒に走った。しばらく走り、追いかけられていないことを確かめると二人は足をゆるめて物陰にかくれた。息がはずんで苦しい。
「大丈夫か?」
「兄貴……」
ホミンは目に涙をいっぱいためていた。
「おいおい、もう大丈夫だから泣くな。物取りなら追いかけてこないよ。それとも、何か恨まれるような心当たりでもあるのか?」
「ない! ないです!」
優しくて温かい声。我慢できずに声を出して泣きだしてしまったホミンを、ジンはそっと抱きしめ、そのまま頭を優しくなでてくれた。ジンの胸は広くて硬かった。
「お前、男だからって、こんなに細っこいんだから、ねらわれやすいぞ。夜道は歩かない方がいい」
あったかい。このひと月、ずっと緊張して生きてきた。こんなに安心して身を任せてしまうと、涙が止まらない。
しばらくして、ジンがホミンの顔をのぞきこんだ。ホミンは泣き顔を見られるのが恥ずかしくて、ジンから離れ、向こうを向いてしまった。
「大丈夫か? 早く帰らないとユンシクが心配するぞ。家まで送って行ってやるよ。」
そう言ってジンは前を歩き始めた。
(待って! おいていかないで!)
ホミンは必死でジンの横に追いついた。
「痛くないか?」
「ちょっとだけ……痛いけど平気です!」
満月が並んで歩く二人を見おろしていた。
その夜、ホミンはなかなか眠れなかった。いろんなことがありすぎた。妓楼での出来事、夜道で襲われたこと、そしてジンに助けられ、抱きしめられたこと。
「兄貴はなぜ僕を抱きしめたのだろう? まさか、男が好きなのかな?」
と考え込み
「師匠はいったい何を隠しているんだ?」
と言ったかと思うと、またジンを思い出してはころころ転がり……そんなことを繰り返していた。
翌朝、ユンシクが帰ってきた。
「師匠、お帰りなさい」
「ただいま。昨日はお疲れ様。ホミン、すごく綺麗だったよ」
「ありがとうございます。それより、あの方はいったいどなたなんですか?」
「やっぱり気になるか? そうだよな。あの方は
「ええーっ? そっ、そんなっ! そんな身分の高い方だったんですか! 師匠とはどういう関係なんですか?」
「俺がこっちへ来たとき、助けてくれた人だよ。陽明君様がソン・ジシュク様を紹介してくださったんだ。話すと長い。今日は寝てもいいかな?」
「ええ~? 気になります! どう見ても恋人にしか見えませんでしたよ!」
「うん、まあ、そんなところかな。すまない。また今度。あ、いや、今のは忘れてくれ」
「ええ~?」
ホミンは聞きたくてたまらなかったが、ユンシクはかまわずに寝てしまった。
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