第46話 初雪
「いつ女だと気づいたんですか?」
「最初からだ。俺はこっちの世界の人間だから、俺の家の前にお前が倒れているのを見て、お前がこっちから来たとわかった。だから、俺が助けなければと思ったんだ。抱き上げて家に運ぼうと思ったんだが、インスの奴が余計なことを言うから、仕方なくお前をヨンジャに預けた。まあ、確かに、俺が服を脱がせるわけにはいかなかったから、ほかに方法はなかったが。まさかお前が逃げるとは思わなかったよ。」
「
その時、杏奈がふと前を見ると、向こうの方に詩織がいた。頭の上に大きく手で丸を描いた後、バイバイと手を振って帰って行くのが見えた。杏奈は申し訳なく思いながら見送った。
「あいつら! そんなことを……。すまない。ちゃんと俺が責任もってお前を預かることができたら良かったのだが」
「あの状況では仕方ないです」
「あの後、お前のバッグの中身を見せてもらったよ。英語の本やスマホや電卓、現代の物ばかりだった。懐かしかったよ」
「スマホはさすがにまずいなと思って心配していました。拾ってくれたのがテハさんで良かったです」
「ちょっと事情があって、文具を借りたよ」
「かまいません。お役に立ってよかったです」
「英語の勉強をしているんだろう? 英語の本ばかりだった。大きな電卓もあったね」
「父が就職の時に役に立つからどうしても簿記の資格を取れとうるさくて、いやいや学校帰りに予備校に通っていました。あまり、計算は得意ではないのですが」
「そうか。でもアンナの電卓のおかげで助かったよ。計算が速くできたから、調査が速く進んだ」
思いがけず電卓が役に立ってよかった。きっと、あの裏帳簿関連の調査に使ったのだろう。
「ユンシクと一緒にお前が男装で現れた時は安心したよ。あっちで生活するには名案だと思った」
「師匠には、私がヨンジャさんのところを逃げ出した後、助けられたんです。本当にお世話になって」
「あいつも女だろう? お見通しだよ」
「わかっていたんですか? それでは、私が
「ああ。お前、本当に綺麗だったな。抱きたくなったよ」
杏奈はとっさにジンに背中を向けてしまった。耳まで赤い。
「ハハハ、お前本当に可愛いな。からかうと可愛いから、ついつい変なことを言ってしまう。俺はガキの頃から好きな子をいじめるタイプだったんだ」
(今の「可愛い」は、ずっと私が求めていた「可愛い」だ! それに「好きな子」って!)
振り向いた杏奈は、はにかんだ笑顔だった。
「お前の歌が聞きたい。あの満月の夜、真珠楼で歌っていたのはお前だろう?」
「あ、あの歌……」
「聞かせてくれるか?」
「はい! 喜んで!」
その時、白い雪がふわりと舞い降りた。
「あ、初雪……」
二人は空を見上げた。
「俺たち、きっと幸せになる」
ユ・テハはその大きな手で杏奈の小さな手をつかみ、自分のコートのポケットの中に入れた。杏奈が彼を見上げると、彼は優しく笑った。
「テハさんはいつ、どんな風に向こうへ行ってしまったんですか? ソン様とはどうやって知り合ったんですか?」
「おい、いっぺんには答えられないから、どこかあったかいところでゆっくり話そう」
二人は歩き始めた。
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