第89話 道ならぬ恋の結末
これが道ならぬ恋の結末。私の立場では陽明君様とお別れをすることもできなければ、葬儀に参列することもできなかった。手を骨折して、一緒にホミンの歌を聞いたあの日が最後となった。
あの日は手が不自由なこともあって私は少しわがままになっていた。ホミンがあまりに綺麗だったので、
「陽明君様は私のことをどのように思っていらっしゃるのですか?」
「いまさら何を言っておるのだ」
陽明君様は優しく笑ってくれた。そんなことはずっと前に確認済みのはずなのに私は
「私には女の魅力がないようでございますね」
彼は私がお願いして以来、一線を超えたくないという私の望みを守り続けてくれている。隣の部屋にある美しい絹の夜具は、夜道が危険だから私がここに泊まるためのもの。彼は遅くまでいてくれるが、必ず妻の元へ帰って行った。それは、私が自分で望んだことなのに、そのことが、愛されているのかと不安にさせた。
「私が姫のことをとても大切に思っていることが、どうやったら伝わるのだろうね。大事に思うからこそ、私は耐えている。幸せになってほしいからこそ、清らかでいて欲しいのだ」
陽明君様が私をそっと抱き寄せてくれた。
「そなたは私の生涯の中で最も愛した女性だ」
耳元でささやいた彼の声が今も離れない。
どのくらい泣いただろう。何もする気がしなくて、しばらく家にこもっていた。コ・シアンが心配して訪ねてきた。
「やはり、思った通りですね。食事と薬剤を持ってきました。これを食べて元気を出してください」
心づかいが胸にしみた。
コ・シアンに見守られながら、なんとか食べるものを口に入れ、薬剤を飲んだ。そして、落ち着いたところで、陽明君様の最後について聞かせてほしいと頼んだ。
陽明君様は突然倒れたので、ご家族も使用人たちも混乱したようだ。奥様と5人のお子様方は、陽明君様のそばでずっと見守っていらっしゃったようだ。そして、最後までご家族に見守られて、安らかに息を引き取られたという。
それを聞いて、何かが外れたような気がした。どうやっても私の入るすきなど初めからなかったのだ。もう、私がここにいる理由などない。帰りたい。元の世界へ帰りたい。でも、でも、もし、同じ場所からでなければ帰れないとしたら……。陽明君様を失った今、私にはそれを知る方法がない。こんな絶望的な気持ちで一人でいるなんて、私にはもう無理だった。
私はジンさんの家を訪ねた。彼は毎日飲んだくれているようで、その日も昼間なのに酒臭かった。先に落ち込んで荒れている人を見ると、勇気づけたくなるのは不思議だ。こっちだって、相当落ち込んでいるのに。
ジンさんは話しているうちに元気が出たようだ。次は私の番。私が元の世界に帰りたいのに王宮に入る
それから何日も音沙汰がなかった。相手の方から連絡をくださるとジンさんが言うのだから、待つしかない。名前くらい教えてくださればいいのに、と思ったが、何か都合があるのだろう。ジンさんはホミンが愛した人だ。信じて待つことにした。
ある日、ジンさんが付き添ってほしいと言うので、一緒に河原へ行った。ここからこの世界での人生が始まったそうだ。ジンさんはホミンに会って本当に変わった。そもそもゴロツキは演技だったそうだが、それを差し引いても、顔つきも身のこなしも格段にかっこよくなっていた。向こうの世界に帰ったら、きっと売れる俳優になるだろう。
「ユンシク、本当にありがとう。じゃあな」
そう言って、歩いていったジンさんの姿が突然消えてしまった。やはり、来た場所から帰れるというのは本当のようだ。
すぐにジンさんに頼まれた通り、インスさんに伝言を伝えた。さて、これから私はどうすればいいのだろう? 王宮に入るなど、どうやっても無理だ。ソン様との連絡方法もない。ソン様とは最初に家を探さないと約束したので、探すことを躊躇していた。すると、二日後に王宮からの迎えが来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます