第90話 世子様と
私が連れて行かれたのは、あの「図書館」だった。懐かしくて、味わうように一つ一つの書架を見ながら入っていくと、いつもの卓にソン様が座っていた。
「ユンシク、ここは懐かしいだろう」
「はい。以前のままですね」
ソン様はいつもと違う、
「ユンシク、隠していてすまない。実は私は
「ええーーーー!! も、申し訳ございません! 今までの御無礼、どうかお許しください!!!!」
私は土下座をした。
「ほらほら、だから君には言わなかったんだ。そんなに距離を置かれると寂しいだろう?」
「で、でも……」
「大丈夫。私も未来から来たから、本物の世子ではない」
「え?」
「私の事情はまたゆっくり話してやろう。それより、ジンは向こうに帰ったのだろう? 来た場所から帰ったのだな」
「はい。私の目の前で消えました」
「インスからジンの手紙は受け取ったか?」
「はい。『
「占い師が、帰る条件は月の満ち欠けに関係があるかもしれないと言っていた。そなたが来た日も朔だったのか?」
そういえば、この世界に来たあの日、夜空を見上げたが、月は出ていなかった。それに、ジンさんが、ホミンが来た日、いなくなって探しまわったけれど、暗いからあきらめたと言っていた。どちらも朔、新月の日だったのだ。
「確かにそうでした」
「では、君も朔の日に王宮に入らねばならない」
「でも、私はどこに倒れていたのか今となってはわからないのです」
そうだ。私を見つけてくれた
「大丈夫だよ。君を最初に見つけたのは私だ。君は、東宮殿の庭に倒れていたのだ。私が女官に命じて運ばせ、兄上にすべてを頼んだ。なぜならば、世子というのは自由がほとんどないが、兄上は一日中自由だからだ。倭国からの留学生ということにすれば、それなりの処遇をしてもらえるだろう? 振袖を着ていたからちょうどよかった」
「世、世子様、ありがとうございます」
「またまた、そんなにかしこまらないで」
「で、でも」
「君って人は……身分を隠して正解だったね。ソン・ジシュクとして君に会う時はとても自然だった」
「申し訳ございません。気を付けます」
「それでは、君をどうやって王宮に入れるかだが、倭国の姫は偽物だと義姉上がつきとめてしまっただろう? それで、提案なのだが……」
世子は言いにくそうだった。
「東宮殿の女官として、王宮に入らないか? ただし、一度王宮に入ったら外の世界には戻れない」
「向こうへ帰れるなら何でもします!」
「本当にいいのか? 東宮殿に入るということはどういうことかわかっているのか?」
「帰ることさえできれば、なんでも耐えます!」
世子様が、チェ・ユンソン様に頼んでくださり、私はチェ家の養女として、王宮に女官として上がることになった。
世子様はよく私を呼んでくれた。お茶を運ぶのも、食事の準備をするのも、夜眠る前に朗読をすることまで命じられた。そんな世子様を見て、周りが盛り上がってしまった。
世子様は幼いころから体が弱くて、何度も死にそうになっていたから
大きな誤解を招いてしまって、私がいなくなった後、一体どうなるのかと思うと申し訳なかった。世子様は同じ未来人として、慣れない王宮で浮かないように、気を遣ってくれているだけだ。朔の日までのあと半月をのりきるために一緒に過ごしているだけなのだから。
世子様のおかげで、私は女官のボスである
ある日、尚宮様が私を王宮の湯殿に連れて行った。
「ここは?」
「王様のご命令で、
梅花様と言った。何やら嫌な予感がした。まさか、まさか!?
「梅花様、おめでとうございます。早くお子を授かって、正式に側室となられますよう」
王様のご命令は絶対だ。私はされるがままで身を清められ、きれいに化粧をされ、美しい夜着を着せられて、立派な部屋に通された。
「こちらで世子様をお待ちください」
※立派な装い……龍の刺繍のお召し物は、王様と世子様だけです。「世子」で画像をググると、イケメン世子様がたくさん出てきますよ( *´艸`)
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