第80話 美少年ユンシク
私たちは一番奥の部屋に通された。座っていてもなんだか落ち着かなくて、部屋の中を見回していると、落ち着いた色の上等な衣装を着て、髪を後ろにまとめた気品のある女性と、髪を大きく結い上げ、目の覚めるような衣装を着た
「
「承知いたしました」
どうやら、この人は、妓楼の女主人のようだ。卓の上には食べきれないほどの料理が並べられた。
「陽明君様、今日はとてもいい男を連れていらしたのね」
「
その瞬間、自分の名前がユンシクになったことを知った。先に聞いておけばよかったと思ったが、そんなことより陽明君様がつけてくださったと思うと嬉しかった。
「まあ、ユンシクさん、初めまして。桂香と申します。よろしくお願いしますね。かわいいわあ。私好み」
「よ、よろしくお願いします」
桂香に押され気味だったが、男と思ってくれたようだ。
英月は人をいい気分にさせる天才で、自然にほめ、話をよく聞き、私達を立ててくれた。酒がなくなるころ合いに酌をし、気配りは痒い所に手が届くという表現がぴったりだ。桂香も英月の教育を受けているのだろう。負けず劣らずだが、こちらは賑やかで盛り上げるのがうまい。
「それではコムンゴをご披露いたしましょう」
英月がコムンゴ、桂香がチャンゴを担当し、陽明君様のリクエストに応えてくれた。私が練習している、あの曲だ。
初めて聞く本物の演奏は、妓楼の雰囲気に溶け込むような、妖艶で心にしみる響きだった。
「やってみるか?」
英月と桂香の演奏が終わったかと思うと、陽明君様が私の手を取り、立ち上がった。
息ができない。触れられることに慣れていない。なぜそんなに気軽に女性の手を握ることができるのだろう。
「さあ、やってみよう」
言われるままコムンゴの前に座って構えると、陽明君様も太鼓の前に座ってバチを持った。私たちは、曲の入りを合わせるため、お互いの顔を見た。
綺麗な顔。真剣な眼差し。
鼓動が早くなって、死んでしまうのではないかと思うほどだった。私たちは息をあわせ、演奏を始めた。
演奏に集中しなければならない。熱い顔や、暴れる心臓を御すのに必死だった。しかし、曲が進み、合わないポイントが近づいてくると、そちらに意識が集中してきた。
さっきお手本を聞いて、リズムが自分の予想と少し違うため合わせにくいのだとわかった。雰囲気がつかめたので、今度は見事に合わせることができた。
英月と桂香が盛大に拍手をしてくれた。最高にすっきりした気分だ。音楽はやっぱりいい。
「そなた、本当に耳がいいな。一度聞いただけでここまで合わせられるとは」
「ユンシク様、まだ始めたばかりだそうですね。短期間でここまでできるなんて、すごいですわ」
それから酌をされるまま酒を飲み、話に花が咲き、大いに笑った。私はこんなに明るいキャラではなかったはずだが、陽明君様に魔法をかけられたようだ。
「そろそろ時間だね」
ポンスンにごまかしてもらうのも限界がある。帰ろうと立ち上がった時だ。私はまっすぐに歩けなかった。
「あれ? まっすぐ歩けない」
私はお酒に強いことに関してはかなり自信がある。大っぴらには言えないが、大学に入学した時から、コンパでは飲んでいたし、どんなに飲んでも、あまり酔えず、逆にシラケていた。しかし、今日はとても陽気だし、なぜか思うように歩けない。
「そなた、飲みすぎだ。しょうがないな。ほら、乗りなさい」
陽明君様が私を背中に乗せようとした。
「だ、大丈夫です! おっと……」
「大丈夫ではないではないか。素直に乗りなさい」
「はい」
王族にこんなことをさせるなんて、今思えば私の首がよくとばなかったものだ。
陽明君様の背中は広くてあたたかかった。夜空には満月が出て、ものすごい量の星が、大きな星から小さな星まではっきりと見えていた。私はくらくらする頭を、コツンと陽明君様の肩に乗せて、「星空のディスタンス」を歌いだしてしまった。
「なんだ、その変わった歌は」
「ベストテンに入った歌です~」
「何?」
「あ~何でもないです~」
私は陽明君様の耳元で散々歌ったのは覚えているが、いつの間にか眠ってしまったようで、気付いたら自分の部屋で朝を迎えていた。とても頭が重くて、気分が悪いうえに、昨夜の失態を思い出し、しばらく起き上がれなかった。私のバカ。私なんか大嫌い。
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