第56話 真珠楼②
あの部屋の方から来たということは、こいつが歌っていたのか? こいつ、本当に
俺はどうしても顔が見たくて、両手を握ったまま離さず、顔を覗き込んだ。
こいつ……! まさか!
酔いも手伝って、俺は大胆な行動に出てしまった。
「おい、お前!」
俺は女の片手を持ったまま、もう片方の手であごをつかみ、こちらに向けた。顔を見た瞬間、俺は息が止まるかと思った。
やっぱり! こいつ、ホミンだ! この口元からあごのライン、間違いない!
化粧をしたホミンは花のように綺麗だった。普段は無邪気なホミンが大人の女の香りを漂わせている。
今、俺はホミンのあごに手を添えている。そのまま唇を近づければキスでもするような……。
紅をさしたホミンの唇は、色っぽかった。俺は俺自身が男としてホミンに反応していることに気づいてしまった。心臓がドクンドクンと打ち付けている。
せっかく仲良くなり始めたのに、ここで、俺たちの関係を壊したくない。ここは酔ったふりだ、気づいていないことにしようと、役者魂を発揮してしどろもどろの酔っぱらいを装った。
「お前~、きれいだな~。名前は~?」
気づかないふりをするとはいえ、俺はせっかくの女の姿のホミンを目に焼き付けたくて、エロおやじ風に上から下までジロジロ眺めた。綺麗だ。薄桃色のチョゴリに目の覚めるような濃いピンクのチマは、ホミンによく似合っていて、花のように艶やかだった。
ホミンが消えそうな声で答えた。
「
モランか……。
胸のところで結んだリボンは目が覚めるような赤で、ホミンの美しさを引き立てている。その時、帯飾りに目が留まった。
俺がやった帯飾りだ! つけてくれている!
うれしかった。
「お、お前……モランっていうのかあ~。あっちで酌をしてくれないか~?」
向こうでゆっくり話がしたいと思った俺は、いつもホミンにやっているように肩に手を回し、連れて行こうとした。しかし、意識ははっきりしているのに、本当に酒が回っていた俺は足元がふらついてしまった。その時、ホミンはスッとしゃがんで俺の腕をすり抜けた。
しまった、女のこいつにはセクハラでしかない!
ホミンは走って行ってしまった。
嫌われたかな? 犯罪かな? ああ~何やってんだ俺! 今日は飲みすぎた。
俺はその場から動けず、ホミンが走っていく後姿を見送った。ホミンの姿は見えなくなった。あいつ、いつもはすっぴんで、子どもみたいに無邪気で、ただ可愛いと思っていたけど……。
「いい女だ……」
俺は空を見上げた。
月ってこんなに綺麗だったっけ。
チョンスとソンミンは、明日の朝早い仕事があるというので、お開きにすることにした。不正を裏付ける重大な情報もいくつか手に入れることができて、俺は大満足だった。
「お前ら、また今度会ったら飲みに行こう。次は真珠楼というわけにはいかないが」
「今日は本当にありがとうございます。わかってますよ、兄貴。そんなに気を使わないでください」
「久しぶりに会えて、楽しかったです。一生の思い出ができました」
門を出たところで、俺たちは上機嫌で別れた。
まだ真珠楼からは賑やかな声が聞こえている。少し早いが、これ以上飲む気にもならない。
いやな考えが頭を駆け巡った。ホミンのやつは、妓生の姿だった。どこかの
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