第13話 兄貴のそばで過ごす時間

 翌日もホミンは商団を訪れた。


「兄貴! こんにちは!」


 ホミンは一生懸命ニコニコしながら、子犬のようにジンのもとへ走って行った。


「おう! ホミン!」


 ジンは今日も、頭を軽くポンポンしてなでてくれた。幸せな瞬間。この時間さえあればいい、そう思うことにした。


 スケッチをすることができるのは、ヘリョンがお茶の準備をする短い時間だけだ。しかも、建物の中から見つからないように描くので、何日か通うことになる。商団の人には、ジンの仕事を手伝っていることにした。


 ホミンはわざと早く来て、簡単な仕事を手伝いながら、ジンが仕事をする姿を眺めていた。仕事に向き合う真剣なまなざし、テキパキと指示する、男らしい声、重いものを持ちあげる時にできる腕の血管。すべてが尊いと思った。推しを間近で見る幸せにどっぷりつかることができた。


 お茶が入ると、ジンは必ずホミンを呼んでくれた。この時間、お茶を飲まずに描くことに専念すれば早く終わるが、ジンは強引なくらいにホミンを呼んでくれるのだ。


「ほら、ホミン、これも食え。これも持って帰るか?」


 ジンは自分のお菓子をホミンの前に差し出した。


「兄貴が食べる分が……」

「遠慮するな。甘いものはきらいか?」

「いいえ、大好きです!」

「じゃあ、遠慮するな。食え食え!」

「ありがとうございます!」


 ホミンは精いっぱいの笑顔で答えた。ジンは満足そうにうなずいていた。


 皆がお茶を飲み終わり、ヘリョンが片付けて屋敷の方へ帰ってしまうと、ホミンがそこにいる理由がなくなってしまう。


「それじゃあ兄貴、また明日来ますね」


 帰るのは名残惜しいが、無駄にそこにいてもジンの邪魔になるだけだし、変に思われるのもいやだった。


「おう、また来い!」


 ジンはまた、ホミンの頭を軽くポンポンしてなでてくれた。


 ホミンが家に帰ると、いつもはポーカーフェイスのユンシクがニタニタしながら報告を求めた。


「今日はどうだった?」

「今日は、兄貴が自分のお菓子を分けてくれたんです」

「おお、そうか。良かったな」

「兄貴って大きいんですよ〜」

「そうだよな。お前より20センチ以上背が高いんじゃないか?」

「はい! そうなんです! 見上げる感じがたまらないです! フフフ…」

「お前、本当に楽しそうだな」

「はい! 幸せです! この夢、覚めなくていいです!」

「よかったな。お前は夢っていうけど、俺はこの夢、もう2年も覚めてないぞ。現実としか思えない」


 ユンシクはこの厳しい現実を夢として忘れさせてくれる人が、ホミンにも現れたことをうれしく思っていた。






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