第8話 雪

 雪は幸太郎に笑顔を向けながら俺に近づいてきた。

 こんな風に雪を見上げる日が来るなんて……。

 雪が傍に近づく度、俺の心音が大きくなった。


「にゃ~(雪)」

 俺は呟くように雪の名前を呼ぶ。



 だけど、どういうことだ? 

 俺は生まれ変わって猫になったんだよな?

 時間軸はどうなっているんだ?

 雪の見た目はあまり変わっていない。


 顔も白く丸い、皺も白髪も増えた様子はない。


「偶然ですね? 散歩ですか? ちっちゃーいっ! 可愛い。まだ子猫ですよね。ワンコも可愛い! 触っていいですか?」


「ああ、別に良いけど」


 聞いてきた雪に幸太郎は顔を赤くしてボソッと呟くようにぶっきらぼうに答える。


 雪のドアップが目の前にあった。

 雪はそっと俺の頬の毛に触れる。


ドキドキドキドキドキ


 俺の小さな心臓が体中を駆けまわっているかの様に大きく打つ。




 俺は前世の記憶は戻ったが、何で今、猫なのか、猫になったという事は俺はどうやって死んだのか、全然それは覚えてなかった。



 だけど、目の前に雪が居る。


 やっぱり、ちょっとだけ年取ったか?


 いいや、ほとんど変わらない。



 雪……。



「にー(雪)」


 俺の声に雪の表情が和らぐ。


 雪……。


 雪……。



 俺の声は届かない……。








 だけど、まだ逢えた。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る