第128話 ふくれ上がった星の守り神。この星を救え (ホロ視点)



『では次は星の守り神様に向かってですね』


 そう言いながらルックはまだ濡れていた目元を右前足で拭い深呼吸をした。


 皆でバクを再び見た。


 ふくれ上がったバクは黒々しい空気に包まれてこちらを睨んでいる。


 今にも襲いかかってきそうな程鋭い目つき。

 爪は尖っていて、自分が裂かれてしまう様な嫌な想像しか浮かばない。


 本当に今の様にパワーを温かいパワーを送ればこいつも、王様みたいに柔らかい表情になってくれるというのか?


 半信半疑だったが、俺達は軽く頷き、前足、いや掌を目つきの悪いふくれ上がったバクに向かってかざした。




 そんな俺達をみて王様だけが、気まずそうに後ろにいる。


『王様も来て下さい』


 ルックの優しいその言葉に、『ワシは無理だ。ワシなんかじゃ無理なんだ。ワシが守り神様をこんな風にしてしまった』そう王様はブツブツと呟いている。


 ウジウジしている王様を見て、頭に血が上った様な恐い形相をしたプディが王様にめ寄った。


『もう、お父様って本当はそんなにウジウジしてたのね。

今まで怖がっていた私がバッカみたい!


それにルックとお父様、私の知らない所でいつのまにそんなに親しくなったの?!


......。


まあ、いいわ。


ルックとの楽しかった日々でも思い浮かべれば、温かいパワーも出るんじゃないの?


本当に私、バッカみたい』


 プディは始め怒っている様だったが途中からは呆れている様だった。


 プディに言われ慌てふためきながらわずかに顔を赤くした王様が遠慮がちに祈りを込めている様だった。

 それを応援するかの様に、祈りを込めながら王様に寄り添うルック。




 まさか、王様とルックって、そういうことか?

 ちまたで言うBLってやつか?

 

 緊迫した空気の中だが、二人の、王様とルックの思いが見えて、プディには悪いが俺の心も温かくなった。




 皆のパワーでバクの周りにも金色の温かい空気、光がフンワリと包み出した。


 王様にパワーを使った後だからか俺達からは止めどなく汗が流れていた。


 その汗も光に反応してキラキラと反射する様に光り輝く。


『まだだ、まだ足りない』


 苦しそうなルックの声が地下室内に響きわたる。


 汗が目に入って痛い。


 六本目の指がちぎれそうになる程熱い。


 ふくれ上がったバクが苦しそうにもがく度に空間が揺れ俺達の集中力も途切れそうになる。


 やばい。


 そう思いかけていたその時だ。


 扉から綺麗な茶色の猫が飛び込んできた。

 飛び込んだ勢いで派手に転び俺達もその勢いにビックリして動きが一瞬止まった。


 茶色い猫は荒い息を上げながら表情は少ないが早口で一気に喋った。


『プディ様、ユイリーです。

遅くなってしまいました。

すいません。


私の育った施設からパワーをもぎ取ってきました。

法律通り感情を殺す事ができない、そんな私達を訓練し感情を失くさせる為の施設。


そこにはそうなってしまう前の、沢山の感情があったのです。



このパワーも使って下さい』



 ユイリーはそう言いながら両前足を俺達と同じ様にふくれ上がったバクに向かってかざした。


 ユイリーの両前足からキラキラとした色とりどりの光達が虹の光線の様に飛び出してきた。


 その光からは小さな子供達が力一杯笑っているそんな映像が浮かぶ様な温かい光の様に感じた。



 金色の光と虹の七色の光が混じり合う。


 俺達の汗とも反応してキラキラと光る。


 その時、黒猫である雪(クウロ)には大きすぎる肩かけカバンが揺れ蓋が大きく開いたと思ったら、そこからクマのぬいぐるみである辰吉と、いつ紛れ込んでいたのか、俺がずっと幸太郎の部屋のケージの中で持っていた布切れ(ハンカチ)が飛び出してきた。



 ハンカチも心があるかの様に好き勝手に飛び跳ねている。

 初めて外に出た子供の様にはしゃいでいる様な動きだ。



 そして辰吉もハンカチもパワーを送っているかの様に祈り始めた。


 俺達も負けてられない。


 俺も出来る限りの思いを込めた。


 六本目の指と共に頭の中に、あの夢の中の巨大な画面の目の映像が浮かんだ。


 それと同時に、俺が救った方達の温かい思いが胸いっぱいに溢れ出してきた。


 会社員の女性、神社好きの男の子、彼氏を亡くして引きこもりになってしまっていた女性、おばあさん、お嫁さん、猫のミーちゃん、そして幸太郎。


 俺が夢に入り救った方々の思いが、温かい思いが俺の六本目の指を通して溢れ出した。


 

 俺の横でも雪もプディも祈っている。


 雪(クウロ)の前足からは俺も含めて他のモノ達よりも大きな光を放っている。

 一人でずっと大変だっただろうに、何故そんなに温かい力を貯める事ができたのが分からないが、雪はとても優しい表情をしていた。



 そして色とりどりな光、空気、温かいパワーが大きくふくらみさらに眩しい光を放つ。


 そしてバクはその光と共にどんどん、どんどんふくれ上がり地下室全体が大きく地震の様に揺れたと思ったその時パーンッと一気に爆発した。


 俺達は爆風に吹き飛ばされたかと思ったが柔らかいワタの様な雲が俺達を包み、皆、怪我一つなく無事だった。


 その爆発後に俺達の周りにあった白いワタの様なものは煙りの様に無くなり何十匹もの小さな可愛らしいバクちゃん達が現れてワラワラ上の方にある小窓の様なモノから外に飛び出して行った。





 そのうち小さなバクちゃん達の中の一匹だけがそこに残っている。


 小さくなってしまった星の守り神様は先程の目つきの悪い顔ではなく、緩み切ったとても可愛らしい顔つきだった。





『これでもう大丈夫でしょう。


あの小さなバクちゃん達ならパワー供給を行う事ができます。


また星の隅々までパワーが行き渡るのも直ぐだと思います』



 そうルックが告げ、俺達も安心し、大きく息をついた。






 こうしてプディと雪の星に光が戻ってきた。



 俺達はこの星を救う事が出来た。

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