第81話 辰君? もしかして頭の中までニャンコ化してる? (雪視点)


 井川さんの部屋に通された私はソファーから少し離れた所に遠慮がちに腰かけた。


 井川さんの部屋は男性の一人暮らしにしては片付いていた。

 几帳面なのかもしれない。


 辰君が一人暮らしをしていたとしたら、足の踏み場もないぐらいにしてしまう事が想像できる。


 辰君は片付けられない訳じゃなくて、散らかっていても気にならないんだよね。



 部屋を見渡すと、ソファーの上には黒いゴールデンレトリバーが眠っていて、その隣には、今、私の星で行方不明になっていて王共々、大騒ぎしていると言う噂のプディ王女にそっくりの子猫が薄目を開けながらこちらを見ていた。



 どうしてこんな所に?



 いや、こんな所にいる訳がない。


 だけど、まだ行方は分かっていないらしいし......。


 そんな事を思いプディ王女に似た子猫を見つめてしまった私は、その子猫と目があってしまい、思わず目を逸らした。


 井川さんが辰君(ホロちゃん)をソファーのプディ王女に似た子猫の隣に下ろした。




 そっくりだけど、多分、普通の子猫だよね?


 井川さんからしたら子猫の隣に子猫を下ろしただけだ。



 だ、だけど......。

 


 あのニャンコ、オスなのかな? メスなのかな?


 辰君、頭の中まで自分が猫だと思いこんで、あのニャンコちゃんに恋しちゃったりしてないよね?


 

 そんな事を思っていたら、辰君(ホロちゃん)はすぐにその子猫のもとを離れてソファーから下りた。



 なんだか、少しホッとしてしまった。



 子猫相手に私、大人げない。



 だけど、私の星では、黒いけど、私もあの姿だ。


 だからなんだか、変にヤキモチを妬いてしまう。


 

 まあ、私は辰君が初恋で、自分の星にいる時は弟を助ける事しか考えて無かったから、この星でも自分の星と同じ様な姿をしている猫さんの姿を見て、心が動いた事なんて、一度もないのだけれど......。




 とその時、黒いゴールデンレトリバーの確か名前はデンちゃんが、眠そうにしていた目をパチリと開き、表情が明るくなったと思ったら、スクッと立ち上がった。


 井川さんの部屋のリビングにあるソファーは3人掛けぐらいの大きさだか、そんなに頑丈そうではない。


 デンちゃんが立ち上がると、助走をつけているのかソファーが少し沈み、プディ王女に似た子猫は、デンちゃんから少し離れて体制を整えているようだった。


 デンちゃんの綺麗な黒い毛並みが揺れ、ソファーからデンちゃんが飛んだ。


 デンちゃんの飛び付こうとしている先に居るのは真っ白な子猫になってしまった辰君。



 危ない!


 私の身体は咄嗟に動いた。


 辰君(ホロちゃん)の前に出た私に、勢いの止まらないデンちゃんが飛び付いてきた。




 びっ、びっくりした......。


 何とか私にぶつかる寸前でデンちゃんも勢いを弱めてくれたみたいで、私はデンちゃんから押し倒される事もなく、無事、辰君(ホロちゃん)を守る事が出来た。




 デンちゃんは私がデンちゃんと遊ぼうとしていると思ったのか上機嫌な様子て尻尾をフリフリしていた。



 可愛らしい仕草に思わず口元が緩み、デンちゃんのフサフサな黒い頬の毛をワシャワシャと撫でた。


 デンちゃんを撫でていると色も黒いから、なんだか弟と幼い頃に戯れあっていた時の事を思い出している私だった。


 デンちゃんも私に撫でられて気持ち良さそうにウットリしている様に見える。



「おっ、デン、ご機嫌だな、あっ、はい。ゆ、朝峰さん、お茶です。どうぞ」


 井川さんがお茶持ってリビングに入ってきてテーブルの上に置いた。



 背中から辰君の気配を感じる。


 触れてもいないのに、側にいるだけで安心するなんて、不思議だ。


 いや、何も不思議ではないか......。


 私は今まで、沢山、辰君に助けられて、その都度、色々な気持ちを辰君から教わった。


 それは辰君が側にいないと生きていけない。

 そう、思ってしまうほど、色々な事だ。


 内容からいったら、そんな事で?

 と、思わず突っ込まれてしまいそうな些細な事だが辰君から教わった感情の一つ一つが、私には真新しかったんだよな......。



 辰君が居る事で、私の今まで寂しかった心が温かくなっていて、あんまり話した事のない井川さんにたいしても満面の笑みで答えてしまっていた。






 その時、デンちゃんが私のさほど大きくない、胸の辺りの匂いを嗅いでいる様に感じた。


 え?


 な、何?


 犬という動物は嗅覚が強いと聞く。

 私達の種族も嗅覚は強い。

 人間になってしまった私は、嗅覚や視覚は人間とさほど変わらない。



 デンちゃんがただ遊びたいだけと言う事は分かっている。

 だけど、そんなにそんな所の匂いを嗅ぐなんて、私は少し臭うのだろうか?


 確かに仕事帰りだし、ワンコにとっては強い匂いになっているのかも?



 なんだか恥ずかしくなってきた私は頬が少し熱くなってきた気がした。



 そんな時、私の後ろにいた辰君(ホロちゃん)がデンちゃんの頭の上に飛び乗った。



 た、辰君、な、何?


 な、仲が良いのね。


 なんだかもう、すっかりニャンコになってしまっている?



 も、もしかして、私と生活していた時の記憶、本当は無くなってしまっているなんて事無いよね?


 辰君(ホロちゃん)がデンちゃんの上で自分の体重をかける様に動き、デンちゃんが少し頭を下げた事で辰君(ホロちゃん)と目があった。



 辰君(ホロちゃん)と私は数秒の間、見つめ合っていた。


 現在、私の星の種族の姿、この星では子猫と呼ばれる姿をしている辰君。


 すごく綺麗な白い毛。



 だけど、目が優しいのはちっとも変わっていない。



 姿、形なんて私には関係ない。




 私は今でも、辰君に夢中だ。


 

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