第80話 比奈と雪。女のバトル?! (ホロ視点)
「先生! 幸太先生、開けて! ホロちゃん、大丈夫なの?」
焦った様な切羽詰まった比奈の声が玄関の方から聞こえ、幸太郎が玄関に向かって歩き出す。
ちょっとだけ振り返り雪と目を合わせた幸太郎は少しだけぎこちなく笑いながら
「ちょっとホロの事、お願いします」
そう言って玄関の方に歩いて行った。
雪は幸太郎に返事をしたかと思ったら何故がデンの上にいる俺の方に目線を合わせて、そーっと俺を抱え上げた。
え?
あっという間に俺は雪の膝の上だった。
雪の膝枕、人間の時とまた感覚が違う。膝枕というより太腿枕だな。
軟らかい......フワフワだ。
幸太郎の太腿より全然柔らかい。
雪の匂い。
甘い香り、懐かしい。
眠くなりそうなくらい気持ちが良い。
あの何気ない日常を思い出す。
もう戻れない日常を......。
俺が仕事のくだらない愚痴を言ったり、アホな事を言って二人で笑ったり。
何気ない、あの日向の中で包まれていた様に幸せだったあの頃を......。
雪に包まれている。
なんだか雪の心臓の音も大きく聞こえる。
そうやって俺は思いに浸っていたのだが......。
デンは雪の横に移動し、擦り寄る様に座りながら少しだけ身を乗り出し、雪の太腿の上にいる俺の匂いを嗅いでいた。
そんなデンの大きな顔が目の前にある。
デン、俺が感傷に浸っている時に、お前のなんも考えて無い様な呑気な顔を見たら、思わず笑ってしまうだろう?
まあ、それがお前の良い所だものな。
プディは鋭い目線をこちらに向けていたと思ったら比奈の声が聞こえる玄関の方に繋がる扉を見ていた。
玄関からは騒がしい比奈の声が聞こえる。
幸太郎の「大丈夫だったから、心配かけて悪かった」という声に「一目見ないと心配なの」そう比奈が言いながら、部屋に入ってきた。
すごい足音だ。
比奈、レディだろ?
歩き方ももうちょっと、おしとやかにした方が良いんじゃないか?
まあ、幸太郎の好みの女性はどんなか分からんがな。
だけど比奈、そんなに駆け寄るぐらい、俺の事を心配してくれてたのか?
なんだか照れるな......。
まあ、猫な俺は可愛いもんな。
最近ちょっとふっくらして来たけどな......。
俺は雪に抱っこされた状態だか、比奈が俺を見て少し機嫌が悪そうに目を細めている。
おい、比奈!? 俺の事が心配だったんだろ?
俺はこの通りピンピンしているぞ?
そうアピールするつもりが、
比奈が見ているのは俺では無く雪だった。
比奈は軽く深呼吸をした後、にっこりとこちらを見て笑った。
「始めまして、幸太君のお知り合いの方ですか? ホロちゃんを保護してくれたそうで、ありがとうございます」
そう、比奈は優しそうな高音の声で雪に挨拶をした。
しかし顔は全然、ありがとうと言っていない。
笑ってはいるが、かなりピクピクと引きつっている。
比奈、確か幸太郎の事は幸太先生って呼んでなかったか?
呼び方変わっているぞ?
「ホロちゃん、慣れて無い人が触ると、引っ掻いたりするから抱っこしたら危ないですよ?」
そう比奈が雪に説明しながら、俺に「ホロちゃんおいで」と言っている。
おい、比奈! な、なんて事を言っているんだ。
俺は人を引っ掻いたりしないぞ!
折角の雪との久しぶりのスキンシップを邪魔するんじゃない。
「そうなんですか? ホロちゃんはとっても元気な子なんですね。だけど、私の胸の中ではとっても大人しいですよ?」
ホワホワした柔らかい喋り口調で雪が言い返し、俺を離そうとしない。
ゆ、雪?
なんだか平和主義な雪が、どうしたんだ?
言い返すなんて珍しいな。
雪、何、ムキになっているんだ?
まっ、まさか、本当に幸太郎の事が気になっているんじゃないよな?
ハッハッハッ。
聞き慣れた息遣いが耳元で聞こえたと思ったらデンがまた俺の尻の匂いを嗅いでいた。
デン。
でも緊張感ないその感じ。
なんだか憎めないな。
だけどデン、あんまり尻の匂いを嗅がれるのも恥ずかしいんだが......。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます