第82話 何? この美少女。私の高ぶる心の動き(雪視点)


 けたたましいインターフォンの音で我に帰った。


 

 その音にびっくりしたのか辰君(ホロちゃん)がデンちゃんの身体の上でビクッと飛び上がった。


 辰君が、その反応と同時に私の心臓の音も跳ねた。



 えっ?


 だ、誰か来たのかな?


 井川さん、今日、予定があったのかな?


 私、もう帰らなくちゃいけない?




「先生! 幸太先生、開けて! ホロちゃん、大丈夫なの?」




 若そうな高音の声。少し切羽詰まったようにも聞こえる。



 今、ホロちゃんって、そう言った?



 た、辰君、ニャンコに、私の星の種族の姿になってから急にモテ始めた?




 そ、そうよね?



 こんなに可愛いものね。


 誰でも虜になっちゃうよね。



 大体この星の人自体、私の星の種族に似た、猫ちゃん達自体が大人気らしいし。




 ちょっとだけ振り返り私の目を見た井川さんは口元だけ笑いながら

「ちょっとホロの事、お願いします」


 そう言って少し急ぎ足で玄関の方に歩いて行った。


 私は軽く返事をした後、デンちゃんの上にちょこんと座っているニャンコの辰君に目線を合わした。



 辰君? 浮気、してないよね?


 辰君と目を合わせると、くるんとした目玉を見開き、固まっている。



 か、可愛い。



 私はそーっと辰君(ホロちゃん)を抱えあげる。


 辰君。


 軽い。


 ちっちゃくなっちゃったね。



 私を辰君(ホロちゃん)を自分の太腿の上に乗せて、ゆっくりと頭を撫でた。



 辰君、あの時、私が初めてこの地球に来て、辰君に助けられたあの時と、立場が逆転しちゃったね。



 あの時は私が子猫だった。


 真っ黒い子猫だった。



 辰君がここにいる。

 人間の姿ではないけれどここにいるんだ。


 辰君は昔、くろくて小さな私を抱きしめていた時、こんな気持ちだったのかな。



 守りたい。



 この小さな存在を守りたい。


 トクトクトク



 辰君(ホロちゃん)の心音が小さくだけど聞こえる。

 その音が私の胸に響く様に私の心音もどんどん大きくなっていった。





 玄関からは先程の高音の声が聞こえてきた。

 少し慌てているみたい。



 井川さんの「大丈夫だったから、心配かけて悪かった」という声に「一目見ないと心配なの」と言いながら、女性がすごい勢いで扉を開けて入ってきた。



 他人の家なのに、遠慮がない様子。


 井川さんの妹さんかな?


 それとも学生さんの様に見えるけど彼女さんかな?


 彼女は、私のクウロの時を思わせる様な、流れる様な艶が見える黒髪で、目もモデルさんの様に大きくて、綺麗......。と思わず呟いてしまいそうな容姿をしていた。

 


 一目見ないと心配、なんて、ま、まさか、この女の子まで辰君(ホロちゃん)の事を狙っているの?


 辰君は浮気性ではなかったし、一緒に生活していた時でも、会社の人など、他の女性の話は聞いた事ない。


 だけど、まあ、良くも悪くも普通の男の子というか......。

 好きな女優がテレビに映ると手は止まっている事もあるし、歩いている時も、スタイルが良い人の横を通ると、目線が動く事もある。


 スタイルはまあ、胸の大きさはちょっとだけ、私の方が大きいかな?


 でもこんなに綺麗な人が辰君(ホロちゃん)の近くにいつもいるの?


 も、もちろん彼女は辰君(ホロちゃん)の事、恋愛の対象とは思っていないだろうけど、なんだか面白くない。



 辰君が逆に記憶がしっかりしてて、こんな美少女や、あんな美猫に囲まれて、デレデレしてるなんて考えたら、面白くない。


 辰君は私のだもん。



 私は辰君(ホロちゃん)を抱えている手にちょっとだけ力が入った。

 



 黒髪の美少女は私と目を合わすと、僅かに眉間にしわを寄せた後、顔を軽く振り、深呼吸をし、こちらが怯んでしまう様な完璧な笑顔で私を見た。



「始めまして、幸太君のお知り合いの方ですか? ホロちゃんを保護してくれたそうで、ありがとうございます」


 黒髪美少女は優しそうな高音の声なのだけど、語尾がちょっとだけきつい。


 部屋の空気も三度ぐらい下がった様な緊迫感があった。


 先程の完璧な笑顔は今現在は、消え、口元がピクピクと動いている。


 美少女の言葉に何か答えなきゃ、そう思っていたけど、私が声を発する前に、さらに力を入れた様に更に強めの声で美少女が畳みかける様に言う。


「ホロちゃん、慣れて無い人が触ると、引っ掻いたりするから抱っこしたら危ないですよ?」



 た、辰君は確かに、ちょっと頑固な所もあるけど、そんな事しないもん。


 私の頬も少しだけ、ひきつるのが分かった。


「そうなんですか? ホロちゃんはとっても元気な子なんですね。だけど、私の胸の中ではとっても大人しいですよ?」


 私は辰君(ホロちゃん)を抱えたまま、なるべく冷静に、そう自分に言い聞かせてながら、話していたけど......。


 こんなに私の感情が高ぶるなんて、あんまりないけど、この数ヶ月辰君に会えてなかった時間が、私の感情を抑えるのを難しくしていた。


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