第31話 でかした。デン君(比奈視点)


 幸太君の家の浴室。

 私は、湯船につかっていた。

 洗い終えた長い髪を頭のてっぺんでまとめて、持ってきていたピンでとめて。



 お湯の色は乳白色でいい匂いがする。

 温かいお湯が冷えた体をじんわり温めてくれる。



 ココが、幸太君がいつも入っているお風呂。



 なんか想像したら、湯の温度の所為かもしれないけど、顔がどんどん熱くなる。


 湯の中で手を動かし湯の感触を楽しみながらも考えるのは良からぬことばかり……。


 男性の一人暮らし。

 窓もないこの浴室は、綺麗すぎる。


 一度お兄ちゃんの部屋に行ったことがあるけど、浴室はカビだらけで酷いものだった。


 お小遣いをもらう代わりにピカピカに掃除したのはそんなに遠い記憶ではない。



 だいたい、お兄ちゃんの電話が通じれば、


 ……。



 そう思ったところで自分の行動を振り返る。



 あっ、私電話してない。お兄ちゃんの存在忘れてた。



 まー、電話してもこっちから通じた事はほぼ無いんだけどさ……。

 私、お兄ちゃんにどんだけ期待してないんだろう。



 そんなことを考えながら、目の前の小ぶりな胸が目に入る。




 スタイルはそんなに悪くないと思うのよ……。


 男の人は大きな胸の方が好きなのかしら?


 私の胸が中々成長しないから、幸太君はいつまで経っても私の事、妹の様にしかみえないのかな?


 お泊り作成の前に育乳作戦の方が先だった?




 だけど、災い転じて福となすってこの事だよね。



 これは神様がくれたチャンスよ。



 幸太君の見た事ない表情、寝顔とか、いっぱい、いっぱい、見れるかも。


「くふふっ」

 興奮した私は水面をパチャパチャと叩いた。


 私はにやけまくった表情を引き締めながら湯船から上がり、洗面所に向かう。


 バスタオルで身体を拭きながら自分の濡れたリュックを見た。


 着替え、思わず受け取ったけど、お泊りする予定だから持ってきていたのよね……。


 だけど……。

 幸太君から借りた綿の白いスウェット上下を手に取る。



 幸太君の服。


 私はドキドキしながら幸太君のスウェットに袖を通した。


 なんだが幸太君に包まれているようで温かい。

 なんて、こんなことを考える私はちょっと変態ちっくかな?


 ドライヤーを借りて髪を乾かす。

 鏡に映っている自分のスッピン。


 化粧はもともと薄化粧だったから、激的に変わるわけではないけどやはり恥ずかしい。



 ……。


 この扉の少し向こうには幸太君が居る。


 鍵を無くしたなんて小学生みたいな理由……。



 言いたくないな。


 恥ずかしいな。



 でも、言うしかないかな……。





 扉を開けて、リビングの扉を目指して足を進める。

 お風呂上り、裸足でフローリングの廊下を歩く。




 色々、聞かれるかな?

 なんて答えよう......。




 躊躇して少し歩く速度も遅くなりながら、リビングからテレビの音が小さめに聞こえてくる。



 私は息を整えてゆっくりと扉を開けた。


 扉を開けたとたん、目の前に大きな黒いワンコ、デン君が勢いよく飛び掛かって来た。


 私はびっくりして後ろに倒れそうになり、走って駆け付けた慌て顔の幸太君が、デン君を私から引きはがしながら反対の手で前のめりになり、肩を掴み支えてくれた。


 デン君は悪びれもなくパタパタと尻尾を振っている。




 幸太君は私の体制が整ったらすぐ離れたけど、私の心臓は治まりつかないくらい高鳴っている。





 びっくりした……。





 だけど、でかしたデン君。





 幸太君に抱きしめられた。訳じゃないけど……。

 顔、すっごい近かった。

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