第47話 入る夢、間違えた?!(ホロ視点)



 俺は二つの画面を見ながら混乱していた。



 どう動いたらいいか、それすらも思い浮かばない。



 俺はそれぞれをよく観察してみた。



 二つの違う点。



 右の映像のお嫁さんは表情に余裕が見える。

 着ている服もくたびれていないというか……。



 戸惑っているようには見えるが左の映像のような重々しさがないというか……。


 年齢が違うという訳ではないんだけど……。




 うーん、上手く言えない。まだ俺の頭もあまり整理できていない。




 よし、決めた。




 あの、ネズミのおもちゃも気になって仕方がないし、




 俺は考えてみても仕方がないと右の高齢者が主人公の夢に飛び込んだ。




*******





 ゆっくりと目を開けた俺は予想と違う景色に驚いた。


 いつもなら外で見ていた景色の中に俺は立っていて目の前には夢の主が居る。

 しかし今回は違った。


 その空間は不思議だった。


 真っ暗な広大な空間の中に無数の切り取られた映像がゆっくりと漂っている。


 それは時にぶつかり方向を変えながら奥の方に流れていき消えていく。


 まるで星空の様に綺麗だった。


 俺はぽかんと口を開けたまま、その星のようなモノの間を歩いていた。



 きっとこれは記憶だ。


 俺はおばあさんの記憶の中に入ったんだ。


 直感でそう思った。





 目の前を一つの映像がゆっくりと横切った。




 その夢の中のおばあさんは満面の笑みだった。




 おばあさんの顔を一匹の茶トラの猫が舐めている。



『ミ~ちゃん、くすぐったいじゃろ。こらっ』


 おばあさんは本当に心から嬉しそうに笑う。


 お嫁さんも茶碗を洗いながらニコニコ後ろの方で笑っている。





 その映像を見ながら歩いていると俺は少し驚いて足を止めた。



 ゆっくり漂う記憶の欠片がいくつも重なり合って山の様になっていたからだ。


 まるで見えないダムにせき止められているかの様だった。


 俺はちょうど目の前にあった映像を見た。







 それは夢に入る前に見た映像に酷似しているものだった。



 おばあさんが興奮して怒っている。




『ミーちゃんがいなくなったのは、全部、麻沙子さんの所為じゃ、私は足が悪い。戸締りは麻沙子さんの仕事じゃろ! ミーちゃんはどこかでノタレ死んでいるのかもしれない。車に轢かれたかもしれない。あー……。私のミーちゃん。可哀そうな、ミーちゃん』




 ミーちゃんと言うのは飼っている猫の事か?


 この夢は猫がいなくなった直後?



 ……。



 俺は問題が大きすぎて、自分の力でできることなんかないんじゃないか?



 訳が分からず途方に暮れた。



 この目の前をただよう映像、どの夢の中にも入って行けるようだ。



 ……。



 俺はまず話の通じそうなおばあさんがミーちゃんと遊んでいる夢の映像の中に飛び込んだ。






*******




 その夢は日向の様に温かくポカポカしていた。


 部屋の隅には例のネズミのおもちゃがある。



 俺は仕事を忘れてネズミのおもちゃに飛びついた。

 良く見たらこのネズミのおもちゃは猫じゃらしの先にネズミがついているという感じのものだった。



「ありゃ? どこから入ったのかね? 可愛いニャンコちゃん。ミーちゃんのお友達かい? 散歩の時にでも知り合ったのかい?」




 早速気づかれたが、やはりこのおばあさんは話が通じそうだ。


 表情がとても柔らかい。


「ニャ、ニャニャ(俺は、ええと……。どう言えばいいんだ?)」



 と言うか話は通じないよな?

 ミーちゃんとも話せるのだろうか? これはおばあさんの夢でミーちゃんの夢ではないからな。



 俺は恐る恐る、おばあさんとミーちゃんに近づいた。


 やはりミーちゃん自体は俺には反応しない。


 だけどミーちゃんがおばあさんに愛情を持っていることは伝わった。


 おばあちゃんがミーちゃんに見せる表情はとても柔らかく、それにこたえる様にミーちゃんがおばあちゃんに甘える様に擦り寄っている。




 少しするとミーちゃんも俺を認識してきて俺の頬を舐めてきた。



 ミーちゃん自身の意思というよりは夢を見ているおばあさんが【俺みたいな猫が現れたとしたらミーちゃんはこういう反応をするだろう】と想像し、

その思いが出てくる人や動物に伝わって行動を起こさせているという感じがする。



 おばあちゃんがネズミのおもちゃを俺達の顔の前で揺らす。



 悪そうな顔つきでにやにや笑うおばあちゃん。




 俺もミーちゃんもうずうずしてきた。

 お尻をフリフリ戦闘態勢だ。




 次の瞬間、二匹同時にネズミのおもちゃに飛び掛かる。



 おばあちゃんは軽くネズミのおもちゃを操り俺達を翻弄する。



 大きく釣り上げる様におばあちゃんがネズミのおもちゃ(猫じゃらし棒)をしならせた。


 俺もみーちゃんも舞い上がったネズミのおもちゃ、ああ面倒くさい、ネヅ太郎としよう。

 に飛び掛かった。



 俺の飛んださらに上までミーちゃんは飛ぶ。



 ま、負けた。




 ミーちゃん、すげー。




 まあ俺は、猫にしてはちょっとどんくさいからな。



 だけどミーちゃんめっちゃ伸びる。



 そんなミーちゃんに見とれた俺はちょっとだけ着地に失敗する。


 痛っ。



 どんくさすぎる。


 俺が自分の足を舐めていると、ミーちゃんも隣に来て舐めてくれた。




 優しい子だな。



 目の色がグリーンなんだな……。

 鼻の横に1cm四方に丸く黒い毛が生えている。

 それがちょっと間抜けに見えて可愛らしい。




 う、浮気じゃないぞ。



 そんなやりとりをしていたらおばあちゃんも心配そうに俺達の目線まで顔を近づけてきた。




 左の夢のおばあちゃんと、同じ人物だろうに随分、身体の動きが違う気がするな……。






 というか、俺、なんか長い間この夢で、遊んでいないか?




 何も進展していないぞ?





 俺、もしかして……。




 入る夢、




 入る順番、




 間違えちゃったかにゃっ!!



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