第33話 ちょっぴり弱音を吐きそうです(ホロ視点)
俺はまた不思議な空間の中に居た。
三度目となると流石にうろたえなくなってきた。
しかし、回を増すごとに、大画面の猫目の部分がどんどんリアルになっていくように思う。
毛の質感、密集具合、パワーを貯める事が出来るとプディは言っていたが、変わっているのだろうか?
だが少しずつ変わってきていることが空間内から伝わって来た。
まず、夢の中の感覚に対するリアルさが増してきている気がする。
肌に触れる空気の流れ、足が地に触れている感覚も前回の時よりもそこに居るという感覚が強い気がした。
気温は以前より、本当に少しだが暖かくなってきた気がする。
暗かった画面には、一人の男性が映っていた。
画面が見づらかったのは、男性の部屋の電気が消えていたからだろう。
男性が部屋の電灯にぶら下がっている長い紐を引っ張り、白熱灯を点けた。
男性の顔が、雰囲気だけだが薄明かりの中に映し出されてきた。
薄明かりの中でも分かるくらい顔の表情は暗く、肩まで伸びた髪はボサボサで毛先もあれている様だ。薄っすら髭も生えており、目も赤く充血していた。
暗闇に俺の目が慣れてきたからか、画面内の男性の部屋の様子が見える様になってきた。
白熱灯なことは変わりない為、見づらくはあるが、男性の部屋はお世辞にも綺麗とは言えないありさまだった。
男性が座っているせんべい布団は、いつ干したのか分からない様なそんな薄さで、少しシミが付いているように汚れている。
男性の布団の周りにはカップ麺の空が積み重なっていて、2Lの炭酸ジュースのペットポトルが何本も置いてあり、中身が入っているものから、飲みかけの物、その隣には、洗っていない事が分かる汚れたマグカップが置いてある。
また、ゴミ箱の中には半額シールが貼られた総菜の空ゴミが、はみ出す様に捨てられていた。
男性が布団の上に座ったまま少し腰を浮かせ手を伸ばし、眼鏡を手に取りかけた時、俺の脳内にも変化が起こった。
今まで画面を間接的に見ていた俺の脳内に直接、男性の目から見えるものが見えてきて、思っていることも直接脳内に響いてきた。
『私は、一人だ。
私が居なくなっても困る人など、もう誰も居ない。
この気怠い日常も、貯金が底つけば生活さえもできなくなる。
だけど、こんなふうになってしまった私をどうやって、昔の自分に戻せというんだ。
最近はまともな考えすら浮かんでこない』
男性の悲痛の叫びが、今までの間接的に画面から見えていたものと違い、脳を揺さぶる様に大きく響く。
それは俺の意識を乗っ取られそうになるほど強烈で、ノンビリの生活に馴染んできた俺にはとても厳しいものだった。
俺は、その感覚に馴染むまで、若干の頭痛を覚え、頭を抱えた。
……。
これが、少し貯めたパワーでの変化という事か……?
しかし、あまり嬉しくない変化だな?
俺自身、男性の声で動揺しているのか、自分の心臓の音がうるさく、早い鼓動が治まらない。
今まで見た夢の中の人達も苦しんでいたが、今回は直接思いが胸に響いてくる分、俺の脳内も、男性の声に、気持ちに、打たれるように響き、苦しいのだ。
男性の気持ちは他人事ではなく、よりリアルに感じれるかもしれないが……。
この男性の思いが、どんなものなのかまだ分からない。
この男性の夢の世界は始まったばかりだ。
……。
平和ボケに馴染んできた俺に、ちょっと降りかかってきた大きな試練。
俺に、乗り越える事ができるのか?
……。
ちょっぴり弱音を吐きそうです。
雪……お前の膝枕が恋しいよ。
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