第67話 もう、俺はミーに逢えないのか?(足だけが黒い白猫 オヤブン視点)


 今日もココに来てしまった。


 ブロック塀の上から家の中を覗き込む。

 家の中は塀の高さのせいか、家具の配置のせいなのか、隅々まで見えている訳ではない。


 だけど、ちょっとオテンバで、よく動くミーはここからでも容易に見ることが出来ていた



 はしゃぐ様に走り回るミー。


 それは、数ヶ月前まで、よく目にしていた光景。


 


 ある出来事を境に見る事はなくなった。



 ミー。



 俺の可愛い、ミー。




 本当は分かっていた。



 俺は目の前で見てしまったから。

 鉄の塊に、猛スピードの鉄の塊に俺の大事なミーが襲われる所を。



 ミーの飼い主である、おばあさんを庇ったミー。


 俺はミーを助ける事が出来なかった。



 あの鉄の塊に襲われて戻ってくるモノはいない。

 俺達、猫は、いくら凶暴であったとしても、あの鉄の塊には敵わない。



 車、と言うらしいが、俺の今までいた仲間達はアレの前に飛び出してしまい、何匹も命を失った。



 ミー、襲われた後、すぐにミーは、おばあさんよりも若い女性と男性の飼い主におばあさんと共に連れられて行った。


 皮肉な事に、男性が乗ってきた、鉄の塊に乗せられて。




 それ以来、ミーには逢えていない。


 

 その前の日の晩、妖艶に笑った君の笑顔が忘れられない。



 『また明日』



 そう君は言っていたのに。




 もう君は戻ってこない。




 俺は胸から何かが込み上げてきた。



 俺には、仲間は居たけど、そのメンバーにも心は開いていなかった。



 俺は生涯一人。



 ずっと一人で死んでいく、そう思っていた。



 一人で生きていくのは、容易じゃなかった。



 肌を刺す様な寒い日も有れば、身体が焼ける様に暑い日もある。





 そんな中で、君との出逢いが、俺に、一筋の光を照らしてくれた気がしたんだ。



 夜の散歩。

 君の隣を歩く時、ドキドキとワクワクが止まらなかった。


 格好つけてしまい、上手く言えていなかったかもしれないが、あの夜の短い時間が俺は本当に楽しみで、幸せだったんだ。



 ミー、もういない。



 あの日以来、ミーに逢えていない。



 だけど、死んだ姿をこの目で見た訳じゃない。




 どうしても、どうしても、諦められない。



 



 もう、逢えない。




 分かって居ても、ココに来てしまう。



 窓の向こうにミーが存在しているんじゃないか、そう信じて。


 



 塀の上からいつもの様に部屋の中を見たら、見慣れない真っ白い子猫が居た。





 どういう事だ?




 俺は怒りでどうにかなりそうだった。



 ミーが居なくなってまだ数ヶ月なのに、もう、別の子猫を飼い始めたのか?



 ミーは、おばあさんを助けたのに。




『アナタはミーちゃんの事を知っているのかい?

ミーちゃんを大事に思っているかい?』




 突然頭の中に知らない声が響いた。



 な、なんだ?




 俺はミーを焦がれ過ぎて、ついに精神までやられてしまったのか?



 真っ白な子猫はこちらをじっと見ていた。



 そして俺は、先程、頭の中に語りかけてきた言葉はコイツが言った言葉だと、何故だか分からないがそう思った。

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