第27話 鏡の中の俺(ホロ視点)

 幸太郎が、俺やプディをケージから出してくれる時間が、最近長くなった気がする。

 まあ、俺の食事を置くすぐ側に、爪をとげる板みたいなものが置いてある。

 幸太郎の思い通りにはなりたくはないが、プディが、そこに乗り気持ちよさそうにガリガリしているのを見ると、俺の足も疼いてきて気がつけばそこに乗りガリガリしてしまっている。

 そんな風で、俺もプディもそこで爪を研ぐことが習慣化されている為、壁を傷つけるなんて悪さはしないからだろうか……。



 俺は冷たいフロ―リングの板で仰向けになり両腕を丸め身体をクネクネさせながら、部屋の中の周辺を見た。



 ……。


 壁紙は既に傷だらけである。

 犯人は……。



 デンだろうな。


 俺がデンを見ていることに気がついたのか尻尾を振りながらデンがこちらにやってくる。


 プディは俺の定位置だったソファーで昼寝をしている様だ。


「ワン(ホロちゃん、何? 遊ぶ? )」



 デンが俺の側まで来て元気に吠えた。

 暢気で良いな。


「にゃっ、ニャ―(俺は、今日は忙しいからアレで遊んでろ、なっ?)」


 俺は顔を軽く振り、デンの遊び道具である鼻の取れた犬のぬいぐるみを示したつもりだったのだが。


「ワン、ワン、ワオン(うん、うん、一緒に遊ぼう)」


 そう言いながら俺の首の匂いを嗅ぎ始めた。

 しまった……。



 仕方なく俺は一通りデンの遊びに付き合った後、デンが昼寝を始めたその隙に家の中の探検を始めた。


 俺はケージの置いてあるこの部屋にいつもいて、扉は閉まっていることが多く他の部屋には行ったことが無かった。


 先程、幸太郎がトイレに立ったことを俺は見逃さなかった。


 ちょっとだけ扉が開いている。


 俺は素早く、隣の部屋に移動した。


 が、その部屋の扉は閉まっていた。


 冒険はこの部屋どまりのようだ。


 この部屋は幸太郎の寝室の様だ。

 俺は普段嗅ぎなれた幸太郎の匂いを嗅ぎながら、誰も居ない幸太郎の寝室の中に忍び足で、足を進めると、目の前に白い猫が居た。


 と思ったら姿見だった。



 何だ俺かよ……。



 と、思ったが俺は鏡の中の俺をジッと見つめた。


 鏡の中の俺も俺をジッと見ている。



 俺が鏡を見ているのだから当たり前の事なのだが、鏡の中の俺は何か言いたげに見えた。



「にゃー(俺は、このままでいいのかな?)」


「にゃーニャ(俺は雪にもう会えないのかな……)」

 

 俺は独り言のように鏡の中の俺に問いかけた。


 鏡の中の俺も俺に向かって何かを言っている。


 


 俺は色々な人の夢の中で前向きなアドバイスを言っている。

 鏡の中の俺もその時みたいに、俺を励ましているように見えた。



 俺は諦めない。



 鏡の中の俺も、お前ならできる。そう、言っている気がした。


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