第95話 辰君(ホロちゃん)は今日の出来事をどう思っただろう? (雪視点)


 辰君の言いたい事ってなんだろう?




 それは現在の猫の姿にどうしてなってしまったのか? とか......それとも辰君は優しいから今の私の生活に対して、心配してくれているんだろうか?



 辰吉の柔らかい毛の感触からなんだか温かさを感じて、すぐ間近に辰君がいる様だった。


 辰君をもっと身近に感じたくて辰吉をキツく抱きしめた。


 なんだか辰吉から辰君(ホロちゃん)の鼓動が聞こえてくる様だ。





 私はまだ迷っていた。



『た、辰君、あ、あのね』


 私の声は緊張で掠れてしまっている。


 私の鼓動と重なる様にホロちゃん(辰君)の鼓動が辰吉から聞こえてくる。






 言うべきだろうか?


 いや、まだ言うべきじゃない。




 辰君(ホロちゃん)に本当の事を話したら、辰君(ホロちゃん)は自分が危険な状況にあると分かっていても、私を全力で守ろうとするだろう。





 それで以前、死にかけているんだから、そうしてしまうことは分かっている。






 じゃー、どうすればいい?


 どうしたら誤魔化せるの?





 私は少しでも冷静になろうと、息を大きく吸った。




 辰君との思い出が頭をよぎる。




 今は感じる事の出来ない、辰君の胸の中の感触、匂い、私の頭を包む掌の温もり。






 守りたい。


 守らなきゃ。



 一緒に居れなくても良いじゃない!




 生きているんだもの。





 逢いに行けば存在を側で感じる事が出来るんだもの。


 




 辰吉を通じて辰君(ホロちゃん)の熱を身近に感じながら、鼓動を感じながら、私の感情は高ぶっていた。





 あんまり感情を出すと、この星に来ている私以外の、私の星のモノに気づかれちゃう。





 私は、目元が熱くなるのを感じていたけど、何とか冷静に、冷静に、そう頭の中で呟いて、もう一度深呼吸した。


 




 その時、辰吉から犬(デンちゃん)の息づかいが聞こえたのと同時に、私のスマホから音がなった。



 その着信音と共に、今、起こっていた不思議な出来事がバチンッと途切れたのが分かった。






 えっ?



 






 辰吉から先程の熱は感じない。


 辰吉からホロちゃん(辰君)の鼓動や声も聞こえない。





 普通の今まで通りの熊のぬいぐるみだ。


 部屋の温度も先程まではホンワカと春の様な暖かさに包まれていた気がしたけど、今はいつも通りの少しだけヒヤッとした、少しだけ寂しい......そんな空気を肌で感じた。




 着信音が鳴り続けていて、私は慌ててスマホに手を伸ばした。




 スマホからは少し元気を取り戻したのか、明るめの比奈ちゃんの声が私の耳元に届いた。





 私は辰吉を元のいつもの定位置に座らせ、上着を羽織りながらベッドに腰かけ、比奈ちゃんとの会話を続けた。







 これは、誤魔化せたのかな?






 辰君(ホロちゃん)は今日の出来事をどう思っただろう?





 私は比奈ちゃんと明日の待ち合わせ時間や、持っていく物などを会話しながら、先程までの胸の高まりをなんとか静める努力をした。





 明日はまた直接、辰君(ホロちゃん)に逢える。



 辰君(ホロちゃん)がどんな風に思ったのか分からない。





 結局、辰君が言いたかった事って、何だったんだろう?

 私の事も言わなくてすんだけど、それも聞きそびれてしまった。




 まあ......明日。


 明日、逢って考えよう。



 比奈ちゃんと会話しながらも私の頭の中は、やっぱり辰君でいっぱいだった。



 


 



 

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