第121話 浮かび上がってきた苦い記憶 (ホロ視点)

 

 『猫の目』の画面の前、幸太郎と幸太郎のおばあさんらしき人との会話が続く。


 幸太郎はぶっきらぼうに言葉少なにしか答えないがおばあさんの事を思っているのが伝わってくる。




 トクトクトク。


 幸太郎の心臓の音だ。


 安定していると言うが、落ち着いている事が伝わってくる音だ。


 おばあさんが部屋を去った後の後ろ姿を、幸太郎少年は憂いを含んだ様な切なげな表情で見つめている。





【夏休みが終わる。家に帰りたくないな......。ココにずっと居たい】





 小学生ぐらいの見た目の、幸太郎少年の心の声が俺の心に流れてきた。


 そしてその言葉が聞こえてくると同時に心臓の音が少しずつ早くなってきているのが伝わってきた。


 シンドイ様な、重たい様な、なんとも言えない気持ちまで伝わってきた。

 

 

 ここは自宅じゃないのか?


 デンはまだいないんだな。


 幸太郎は確か28歳だったか、その幸太郎がまだ小学生ぐらいという事だから、デンはまだ生まれていないという事か......。




 俺は辰也だった時の年齢は25歳だった。

 幸太郎の携帯を見た時、年号はあまり変わっていなかった。

 この世界が俺の居た世界ではなくパラレルワールドだったとしたら話は別だが、幸太郎は辰也だった時の俺よりも3歳年上という事だ。



 最近、幸太郎は比奈とちょっと良い感じだが、そう考えると本当にかなりの歳の差だな。


 まあ、10年も経てばそんな歳の差も気にならなくなるんだろうけどな......。







 そう言えば、幸太郎は人付き合いが苦手だったな......。





 だから俺やデンの事も、かなり大事にしている様だった。



 あの年で、彼女も初めてみたいだったし......。

 と、いっても幸太郎と比奈はまだ付き合っていないか......。


 堅物な幸太郎の事だ、両思いだとしても付き合うのはかなり先、まあ比奈が20越えたぐらいな気が俺はするな......。


 比奈はそんなに待ってくれるかは疑問だがな。


 



 胃がキリキリと痛む。


 それは俺の痛みではない。

 幸太郎少年の痛みだ。



 幸太郎少年は家に帰りたくないと心の中で言っていた。


 家庭の事情だろうか?


 幸太郎の家庭環境はどんな感じなんだろうか?

 言われてみれば幸太郎と生活していて、家族からの電話とか、あっただろうか?

 

 まあそんなに電話に耳をすましていた訳ではないから......分からないけれど......。





 この夢の幸太郎は小学生ぐらいという事だから、このぐらいの歳の時、何かがあって、それが心に引っかかっている様な感じなのかな?





 『猫の目』の画面の中では、幸太郎少年が縁側に腰掛けている。


 足をプラプラとさせながら空を眺めているみたいだった。



 幸太郎少年、なにかシンドイ悩みを抱えているんだろうか?






 幸太郎少年が自分の背に置いてあったキャップをかぶった。

 


 そのキャップには『黒猫の刺繍』が施されていた。




 その帽子を見た時、俺の頭がズキッと傷んだ。






 な、なんであの帽子がアソコに......。





 


 俺は『猫の目』の画面の前でズキズキ痛む頭を掌で抱え込みながらうずくまり、なんとか画面をもう一度見た。






 俺の中で断片的にだか記憶が浮かび上がってきた。






 なんと叫んでいるか分からない。


 印象に残ったアイツの表情。





 俺が大人になる前に消し去ってしまっていた記憶。






 俺は幼い頃、丁度、今ぐらいの歳の頃、幸太郎に会った事がある。





 夏休みの2週間程度の事で、俺の中で、良い記憶ではなかったからか、すっかり忘れていたが......。




 

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