第122話 俺の過去、幸太郎の心のシコリ(ホロ視点)
『黒猫の刺繍』あの帽子は俺にとって特別な帽子だった。
『猫の目』の画面の中の幸太郎少年を見ながら俺は過去の事を思い出していた。
幸太郎少年の夢の中の画面を見つめながらも俺の頭の中には過去の、今まで忘れてしまっていた数日間がすごいスピードで流れ始めた。
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<幸太郎と辰也の過去(小学生の辰也視点)>
数日前に出会った三つ上のお兄ちゃん名前は幸太郎。
住んでいる所は、本当はもっと都会で、事情があって数日間だけ遊びに来ていると話に聞いた。
好きなゲームとかアニメとか興味があるものが似てて、あっという間に仲良くなった俺達。
だけど幸太郎は俺のいつもの友達達と違っていてあんまり大声ではしゃいだりしないタイプで始めは俺達の事も遠くで眺めている感じだった。
俺は遠くから見ている幸太郎が気になって、友達には適当に理由を言って遊ぶのを断って幸太郎にちょっかいをかけた。
幸太郎は中々自分の事は話さなかった。
だけど朝から晩まで一緒にうろうろとついて回っていたら幸太郎も根負けしたのか色々なことをしゃべり始めた。
「俺さ。お母さんと血がつながってないんだ。
お父さんも俺よりも今のお母さんが生んだ弟の方が可愛いみたいで、俺、家に居場所がないんだ」
この言葉、簡単に聞けたと思うかもしれないがそうではない。
この言葉を聞き出すために俺はあの仏頂面を笑わす為、どれぐらい苦労したか分からない。
俺は幸太郎の気持ちを分かってあげたかった。
だけど俺は所詮、そんなに苦労も知らないごく普通の悪ガキだ。
どんなふうに元気づけたら良いか分からなかった。
「お前は? お前の家族はお前に優しいか?」
「俺の家族はお母さんだけだ。だけど優しい」
俺は自分の被っていた帽子を脱いで幸太郎に見せた。
「これさ、お母さんが刺繍してくれたんだぜ。俺、小さい頃に黒猫を飼っててさ。
居なくなって落ち込んでいたらお母さんがコレをくれたんだ。
これでいつも、たっちゃんはクウロと一緒だよ。
そう言ってくれたんだ。
だから大事な帽子なんだ」
幸太郎は俺がお母さんの事を自慢気に話しても笑ってくれなかった。
いや、笑おうと努力していたのかもしれない。
下を向き、少し唇を噛みしめて足元にあった石を軽く蹴っていた。
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<現在、幸太郎少年の夢である『猫の目』の前で子供の辰也になっているホロ視点>
それからどうしたんだっけ?
そうだ。
俺は家に帰りたくない。
そう言う幸太郎に、この帽子をやるって言ったんだ。
だけど、幸太郎がそんなものいらないよって叫んでた。
俺は帽子を無理やり幸太郎に押し付け様としたんだけど幸太郎が嫌がった弾みで帽子は路肩にあった子供が入れるくらいの、ちょと大きめの溝に落ちてしまって......。
その時、すぐに探しに行ったら見つかったかもしれないのに、なんだかイジをはってしまって......。
幸太郎とはその時に言い合いをして別れたままだ。
頭の中で浮かんだ幸太郎少年の叫び声は『そんなものいらないよ!』だったんだ。
だけど、あの帽子、刺繍の黒猫の顔の髭部分に、クウロから自然と抜けた髭を使っていたから、変わりはない。
本当に唯一無二のモノだった。
後から、探しに行っても無くて、俺は悔しくて悔しくて......。
今、考えると幸太郎は全然、悪くないよな。
俺は子供だった。
だけど、無くなった筈のあの帽子、なんで幸太郎が持っているんだ?
幸太郎が探しに行ってくれたのか?
『猫の目』画面では、まだ縁側で幸太郎少年が足をブラブラさせている。
そして幸太郎少年の側に黒猫が現れた。
俺はその黒猫を見てすぐに思った。
クウロだ。
もしかして、クウロ(雪)は俺の側から居なくなって、あれからも、ずっと、俺の近くで俺を見守ってくれて居たんだろうか。
幸太郎少年が黒猫の頭をそっと撫でる。
「この帽子を届けてくれてありがとう。
不思議なニャンコちゃんだな。
辰也と、これがあったら仲直りが出来るかもしれない。
だけど、俺はなんだか、もう怖いんだ。
疲れたんだ。
折角だから、この帽子は貰っていくけど、俺はもう、いいんだ」
そうか、幸太郎は、この時の事をずっと後悔しているのか......。
雪(クウロ)は俺と幸太郎をもしかして、ずっと、ずっと、仲直りをさせたかったんだろうか?
俺は今、この夢に入る事で、幸太郎の心のシコリを取る事が出来るんだろうか?
俺は画面の中の幸太郎少年とクウロ(雪)を見つめていた。
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