第131話 俺の手を見ろ! 注※それは足です(辰也視点)



 幸太郎の家を訪問した後、雪の家に、いや今は雪と俺の家に帰って来ていた。


 狭い部屋だけど雪とこうして向かい合う事ができて嬉しくて表情が緩む。




「はい。辰君、コーヒーだよ。明日から仕事だよね。大丈夫?

随分とブランク空いているよね?


勘とか戻りそう?」



 確かに職人の仕事は体力勝負だし、ホロとして、ゴロゴロして生活をしていた俺はかなり不安というか落ち着かなかった。



「まあ、不安だけどさ......。


雪とこうして当たり前に過ごすことができて、俺は幸せなんだ。


頑張らなきゃな。


なんでもやるさ」



 俺の言葉を聞いて雪が赤くなった。


 俺は前の俺はこんなに素直に雪に甘い言葉は言わなかった。



 離れてみて始めて、どんなに、雪とこうして一緒にいる事が幸せだったか分かったんだ。





 あの後、幸太郎との正式な仲直りは上手くいった。




 大事なもんなんだろ?


 って言いながら幸太郎が『黒猫の刺繍』の帽子を持って来た時はびっくりした。



 長い時間経っているのに、帽子はとても大事にされていた様に綺麗だった。


 俺は謝りながら幸太郎に夢の中の時みたいに帽子をかぶしてもう一度謝った。


 幸太郎も謝って。


 しばらく二人で謝りあっていたら比奈と雪に止められた。


 帽子はもうコレはお前のだ。

 これからも大事にしてくれたら嬉しいと言ったら恥ずかしそうに幸太郎が笑った。



 その顔を見て俺はなんだか嬉しくなった。


 俺にはもう、本物のクウロ、いや雪が側にいるからその帽子はいらないんだ。



 母さんも許してくれるさ。


 今更、返されるのも複雑だしな。






 そうそう、比奈やプディに初対面のふりをするのもかなり大変だった。



 だけど俺は頑張った。


 それにケージの中に俺に似た白い猫が寝ているのも複雑だった。




 そしてこうして今は雪の、俺達の家に帰ってきてノンビリしている訳だ。


 



『ホロロさん』


 猫の鳴き声が聞こえたと思ったら窓際には茶色の猫、確かナンシーさんがいた。


 現在は地球に勉強の為に来ている研修員達をまとめる仕事をしているらしい。


 俺が窓を開けると遠慮がちに部屋の中に入ってきた。


『ホロロさん、辰也さんが人間に戻れる薬、効いたみたいですね?

後、ホロロさんにも飲んで頂いたお薬。

人間になれるものと、もう一つは妊娠を再び出来る身体に戻す為の薬だったのですが副作用とかないですか?


大丈夫ですか?』



 そうか、わざわざ言いに来てくれたんだな。  


 パワーを薬に込めたらしいのだが、今まで必要とされていなかったものだったからか、試作品の様なものだった為、心配で様子を見に来てくれたみたいだ。


 ナンシーさんも前より少しだけ表情が出てきたな。


 優しい表情だ。




 本当に猫、そっくりだよな。






 アナタ! そうそこのアナタのすぐ側にいるそのニャンコ、もしかして雪達の星の種族のモノが地球の知識を学びに来ているのかもですよ? なーんてな。





「大丈夫だよ。ほら俺の手を見てみろよ!」


 俺は安心させる為に俺の手を見せたのに、調子に乗ってバチが当たったのかも知れない。


 そう俺が言った途端、俺の身体がどんどんどんどんしぼんでいく。


 そしてあっという間に小さくなっていった。




 そう、俺の手、いや前足は真っ白い子猫、モフモフの白い毛に包まれていた。


『それは足......。ですね』


 ユイリーの言葉が寒い夜空に響いていた。





 まだまだ俺に降りかかった受難は続きそうだが、雪の側ならなんでもできる。



 俺の側に雪が駆け寄り慌ている。




 雪? 大丈夫だ。


 すぐ薬を改良してもらおう。

 また戻れるまで雪に苦労をかけるな。



 だけど、ずっと側にいるからな!

 人間に、完璧な人間に戻れたら、しっかり働いて、雪を楽させてやるからな!


 俺は雪の頬の前に右前足をいや掌を出した。




「ニャンニーニャオ(俺の手を見ろ!)」



 注※それは足です。






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俺の手を見ろ! 注※それは足です やまくる実 @runnko

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