第37話 デン、俺はお前になりたいよ(幸太郎視点)

 俺には毎晩していることがあった。


 そう、あれは、プディちゃんが一緒に住みだしてすぐだった。


 夜間に物音がして、リビングの方に行くと、ホロが寝ているはずなのに、声ではないような声を上げていたり、寝ているはずなのに、身体が動いているというか……、うなされているのか? 夢遊病か?


 だけど、様子がおかしいのは夜だけで、朝にはケロッとしている。


 それからというもの、心配だった俺は、毎晩、ホロの様子を定期的に見に行くことが日課になっていた。


 しかし、今日はリビングには比奈ちゃんが寝ている。


 今、俺がリビングに入って行けば変態と思われるだろうか?

 


 もし、比奈ちゃんが目を開けてしまったら?

 


 どう説明する?

 

 ホロを見に来たんだ。俺の日課なんだと伝えたところで信じてもらえるのか?



 現実は女子高生の寝ている部屋に28歳の男が忍び込んでいるんだぞ。




 ……。




 だけど、ホロ……。


 

 最近は前ほど心配もしなくなったが……。



 様子を見に行かないのもなんだか気持ちが悪い。



 俺はゆっくりリビングの戸を開けた。



 開けてすぐ音に気がついたのかケージの前に居た比奈ちゃんと目が合った。


 比奈ちゃんはホロの身体に手を当て心配そうな顔をしている。


「どうした?」


 俺は比奈ちゃんに声をかけた。



「ホロちゃんの様子がおかしいの。身体熱いし、どうしよう? 病院つれて行ったほうが良いんじゃないかな?」


 比奈ちゃんの言葉に比奈ちゃんを視界に入れない様にホロを見る。

 そうだよな……。びっくりするよな。

 


 俺も夜中じゅう見守って、次の朝酷い風邪をひいたこともあったもんな……。


 あの日もホロは朝にはケロッとしてたんだけどな……。


「ホロはあんまり寝相が良くないんだ。寝言も良く言うし」


 やはりホロの事も心配で近くまで寄ったが、ふと、俺は当たり前のことに気がついたんだ。


 比奈ちゃんが近くにいる。

 


 今までは何でもない事だったのに、心臓の音が聞こえるんじゃないかと言うくらい俺の動悸は激しくなった。


 分かってはいたが比奈ちゃんが、俺の、女子高生からしたら、こんなおっさんのスウェットを着ている。


 俺のスウェットは比奈ちゃんには少し大きい様だ。

 緩くきているなかに細い手首が覗いていて……これって彼シャツみたいな感じか?


 俺は自分の身体が少し熱くなってきていて、どうにかして気をそらそうと必死になった。


 とりあえず、今を乗り切らなければ……。


 ホロの事は心配だ。

 だけど今の動悸の激しい俺はとてもじゃないがこれ以上、比奈ちゃんに近寄れない。


 まかり間違って……。



 いや、相手は高校生だぞ?


 俺は数分間の中でかなりの葛藤を繰り返した。




「まあ、初めは俺も心配して朝まで様子を見に行ったりしてたけど、次の日の朝はケロっとしてんだよ。体温ももともと高いし。早く寝ろよ? 昨日雨に濡れているんだし、比奈ちゃんの方が風邪をひくよ?」


 俺は頭に浮かんだことを、一気に喋った。

 動揺していることを気付かせないためになるべく表情は出さない様に。




 俺は寝室に入って扉を閉めて扉に寄りかかり強く目をつぶった。



 こんな感情、俺は知らない。

 俺、俺どうしたんだろう。

 親友の妹にこんな感情を抱くなんて……。



 高志に知られたら、はり倒されるだろうか?




 比奈ちゃんには素っ気ない素振りをしていても高志はシスコンだ。




 俺は、俺のベッドに無防備に仰向けに足を広げて爆睡しているデンの頭を撫でた。


 俺、頭がパンクしそうだよ。



 デン、暢気だな?



 俺はお前になりたいよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る