俺の手を見ろ！ 注※それは足です

第38話 今日はもう疲れた（幸太郎視点）

　あれから俺は寝れるはずもなく、２時間ぐらい悶々とした時間を過ごした。

　そして俺は再び様子を見にリビングの扉をそっと開けた。

　比奈ちゃんはケージの前でホロの前足に自分の右手を置いたまま眠っていた。

　やっぱりあのまま寝たんだな……。

　昨日、あんなに雨に濡れたし、風邪ひくだろう？

　そんなことを考えていた俺だったが、

　その時、比奈ちゃんのホロの前足を掴んでいる手があわく光っているのに気がついた。

　俺は、自分の目を疑ったが柔らかく光っている手が幻想的で、眠っている比奈ちゃんの顔がすごく幼くて可愛くて、治まっていた動悸が再び激しくなった。

　光は気がつくと治まっていた。

　俺の目の錯覚か？

　というかどうしよう。

　このままじゃ比奈ちゃんが風邪をひく。

　だけど……。

　比奈ちゃんの側に近づき触ろうと試みるが、この前までは何ともなかった比奈ちゃんの香りが、ありえなく甘く感じる。

　デンとの騒動の時に一度だけ触った比奈ちゃんの身体を思い出し俺の脳内が良からぬ妄想で支配される。

　俺は頭を左右に振り冷静さを取り戻そうとした。

　比奈ちゃんを抱えて布団に移さなければ……。

　俺は頑張ってもう一度、比奈ちゃんに手を伸ばした。

　比奈ちゃんにもう少しで触れる所まで手を近づけた俺だったが、自分の心臓の音でどうにかなりそうになりまた一旦距離を取った。

　駄目だ駄目だ。

　深呼吸をして自分の心音をいつも通りに戻そうと試みるがちっとも治まってくれない。

　比奈ちゃんに直接触るのは無理だと判断した俺は、薄手の布団を比奈ちゃんに被せて布団ごと抱える作戦を試みる事にした。

　もう俺は、抱えた時、比奈ちゃんの香りを嗅いでは駄目だと息も止めていた。

　だが、比奈ちゃんを持ち上げた時にホロが一緒になって持ち上がった。

　釣れた？！

　いや比奈が着ている俺の大きなスウェットの袖先に、ホロの爪が引っ掛かっていたのか？！

　俺はもう余裕がなかった。

　ぶら下がっているホロごと比奈ちゃんを抱きかかえる。

　布団も一緒に持ち上げているのにあまりの軽さに驚いた。

　女性とはこんなに軽いのか？

　無心だ。無心を貫くのだ。僧になれ。

　止めていた呼吸も限界に達し苦しくなって思い切り息を吐く。

　そして思い切り息を吸い込む。

　それと同時に比奈ちゃんの髪の毛からシャンプーの香りが混じり俺の鼻腔をくすぐる。

　俺と同じシャンプーの匂いなんだよな？

　駄目だ駄目だ、あんまり考えるな。

　俺は、なるべく比奈ちゃんを見ない様に、ホロや、自分の足元を見ながら慎重に敷布団まで運び、起こさない様にそっと下した。

　ホロ、もう今日はお前もここで寝てろ。

　布団の中で気持ちよさそうに丸まったホロとそのホロを抱えながら気持ちよさそうに眠る比奈ちゃん。

　俺は比奈ちゃんを見ながらしみじみ思った。

　ちょっと前まで子供だと思っていたのにな……。

　成長しているんだな。

　寝ろって言ったのにホロの事心配だったんだな……。

　素直で優しい子だよな……。

　思ったより色んな事に一生懸命だよな……。

　俺もあんまり関わらなきゃいいのに、ほっとけないのは比奈ちゃんが優しいからなんだよな……。

　何だか今日は色んな比奈ちゃんの事が知れた気がした。

　顔、ちっちゃいな……。

　なんだかまた顔が熱くなってきた。

　動悸もおさまらない。

　俺はこれ以上この部屋に居てはまずい。

　俺は慌てて寝室に戻りベッドにもぐり込んだ。

　今日はほとんど寝ていない。

　今から何時間寝れるだろう？

　今日はもう疲れた。

　寝る！（努力をする！）