第118話 今の俺の大事な人 (ホロ視点)

 

 ベロンとヌメっとしたモノに舐められて目を開けると、目の前にはデンのノンビリした大きな顔があり、その口元からは今にもヨダレが落ちそうで、俺はびっくりしてちょっと避けた。


 先程のヌメっとしたのはデンの舌だったんだな。




 ハッハッハッハッ。


 相変わらず息遣いは激しい。


 幸太郎は多分、ゴールデンレトリバーからデンと名付けたんだろうけど、俺からしてみれば【ででん】のデンだな。


 


 だけど、俺もかなり平和ボケしてしまっているんだろう。


 目の前で非現実的な事ばかり起こるから、最近は毎日驚きでいっぱいだし、そんな時、呑気なデンの顔を見ると安心する。



 雪はクウロだった。


 雪は、俺の側に、もっと前から、ずっと居たんだ。


 俺の側にいなかった時も、何処かで俺の事を見ていたんだろうか?


 雪の想いが一気に流れてきた気がして、胸も目頭も熱くなってきた。




 雪達の星は......。


 かなり幻想的な空間だったが、なんだかそこに居た猫(?)達は皆、仮面を被っているかの様に表情も動かず、人形の様だった。


 かなり奇妙な集団に見えたんだ。

 


 まだまだ分からない事が多い情報量が足りない。



 だけど、雪が俺に自分の事情を何故話したくないか、それは......。



 俺が頼りないからか?

 嫌、違う。

 雪は多分、全部自分で抱え込もうとしている。



 俺にもパワーがあるとプディは言っていた。


 俺にもプディが言っていたパワーってヤツがあるなら雪の足手まといになんかならない。



 だけど、今のままでは、俺がいない所で、雪が一人で危険な事をしてしまう可能性がある。


 プディに話そうにも、今はもうプディは比奈の家に帰ってしまった。


 また、雪の夢には行けるんだろうか?


 辰吉をもっと、うまい具合に活用出来ないんだろうか?



「ホロちゃん、おはよう。今朝も良い天気だよ」


 そう幸太郎がデンの後ろから俺を覗き込み優しく俺の頭を撫でた。


 俺は幸太郎に頭を撫でられるのも、すっかり慣れてしまったし、条件反射の様に、ご飯欲しさに甘い声も出してしまう。


「ニャ〜オッ(今日も美味しいのを頼むよ)」


 子猫特有の高くて可愛いらしい甘い声だ。

 顔を斜め45度に傾げ目を見開き過ぎず黒目がちになる様にイメージするのがポイントだ。



 幸太郎も俺の声や表情にメロメロ(死語)で、いつもは無愛想な顔も緩み切っている。



 その気持ちは痛い程、分かる。


 俺も幼い頃、クウロが可愛くて仕方がなかったから......。



 だけど......。


 もし、もし雪に危険が迫っていて、その事を俺が知る事が出来たとしたならば、また俺はどうにかしてこの家を抜け出すだろう。


 幸太郎が心配しまくる所が容易に想像できるが仕方がない。


 雪は俺にとって、何にも変えられない、かけがえのない存在だから。


 


 まあ、雪程ではないが幸太郎も、俺にとって、ちょびっとだけ大事な存在にもなってしまった。


 俺が居なくなった後の幸太郎の事も、やはり心配ではある。






 その時はデン、宜しく頼むな?




 ハッハッハッハッ。


 荒い息遣いで呑気な顔をして首を傾げるデンを見て俺はまた小さく息を吐いた。


 


 

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