第111話 雪の泣き顔 何も出来ない俺 (ホロ視点)

 俺はナニモノなのか。


 それは俺自身が考えていた事だ。


 プディの言葉に随分、雪は動揺している様だった。


『えっと......。私の質問にまず答えてよ。ホロちゃんの事はそれからよ』



 雪は一度深呼吸をしてからそう続けた。


 そんな雪を見てプディも不思議そうに首を傾げた。


『アナタ、ホロロさんよね? 

幼い頃、遠くからだけど見かけた事があったわ。

あの時は他の調査員と変わらない、父のいいなりの方達だと、思っていたけど......。


なんだか雰囲気変わった?

表情も何もなかった方だと思っていたのだけど......。


まあ私達の星は皆、感情をほとんど表に出せない。

それが癖みたいになっているから......。


本当にホロロさん?

調べた情報が間違っていたかしら......。

アナタもホロとまた違うけど、底知れないパワーを秘めているわね。

どういうことなの?

そんなに感情の波があるのなら、捕らえられてしまっている筈......』



 頭の中を整理してみようか。

 ええと、雪はプディからホロロと呼ばれているんだな。

 ホロロ、俺のホロは幸太郎が名づけたんだ。

 何かの偶然か?


 そしてプディの事を雪はプディ王女と言っていたな。


 王女か、確かにそんな風格あったよな。


 そしてパワー。

 感情の波?


 パワーって俺が他人の夢に入ったりするあれか?


 こうして時間を止めたりするのもパワーが関係しているという事なんだよな?


 俺もあんな事ができると言うのか?

 今はまだ、そんな気配が全くないんだけど......。


『プディ王女。

お父さんに、王にこの事を伝えるの?


お願い。

ホロちゃんの事は言わないで欲しいの。

それとももう言ってしまったの?』


 雪が顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

 少し涙を堪えた様に声をしゃくり上げながらさらに言葉を続けた。



『ひぃっくっ、私はどうなっても構わない。

本当はずっと辰君の側に......。


いや、側に入れなくても良い。

元気な姿をたまに見れたらそれで良い。


もし、ホロちゃんの事を王にまだ報告していないのなら黙っていて欲しいの。


お願い』



 雪の掠れかかった泣き声まじりの叫び声に俺の胸は熱くなった。


 まだなんの事を言っているのか俺には分からない。

 だけど雪が何かから俺を守ろうとしているのは伝わった。


 雪が大きく取り乱したからかプディがなんだか慌てだした。


『なんだか分からないけど、わかったわよ。

ホロの事は言わない。

私も父に見つかったら困るもの。


......。



アナタは父側の手のモノではないのね?


前はそうだったかも知れないけど、少なくとも今は違うのね......。


ちょっと落ち着いてよ。

そんなに感情を出したら、そのパワーから、察知されてしまうかもしれないでしょう?』



 そう、プディに言われて雪も少し慌てる様に咳き込んだ後、大きく二回程深呼吸をしているみたいだった。


 



『ああ、そうよね。


ありがとう......』


 そして雪はプディの言葉を思い返す様な仕草をした後、キョトンと一瞬言葉を失った。


 そして、雪はゆっくりとプディに問いかけた。


『......。


父側の手のモノではないってどういう事?

アナタも、プディ王女も違うの?


見つかっては困るって......。

アナタもアナタの敵対するモノもひょっとして......』


 雪は自分の手の甲で、出てきてしまった涙を拭きながらだけど、表情が安心した様に落ち着いてきた。




 あー、雪、大きな黒目の周りが真っ赤だ。


 こんな身体じゃ、雪を慰めてやる事も出来ない。

 俺の身体も表情も止まったままだしな。



 プディと雪の話を聞いてもまだ分からないことだらけだ。


 俺はナニモノなのか?

 どうしてこんな姿になったのか、雪やプディが何と戦っているのかも、まだ分からない。



 はっきりと分かった事は、雪は俺(ホロ)が辰也だと分かっていると言う事。


 それだけだ。




 どうして雪は俺に話を聞かれたくなかったんだろうか?


 聞いていなかったフリをした方が良いんだろうか?




 そんなフリ、俺に果たして出来るのか?



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る