第2話 幸せな日々?
「辰くん?どうしたの?」
聞きなれた声に安心し、ゆっくり瞼を開けると覗き込んでいる女性、雪の顔が目の前にあった。
布団は薄いがいつもより柔らかく感じて、目の前の低い天井に安心する自分が居た。
「ああ、なんかな、夢を見たみたいだ。鮮明だった。もう驚くぐらい」
俺がいつもより良く喋るからか雪はクスクス笑いながら立ち上がり台所の方に歩いて行った。
それを目線で追った俺はゆっくりと起き上がり、自分の見慣れた手のひらを見つめた。
そうそう、俺の手はこんなだった。
男にしてはちょっと小さめで少し不格好に指が太くて、毛深さも普通の一般男性と変わらない。
「そっかー? 怖い夢だったの? 私も出てた? あっ、リビングに珈琲置いてあるよ。もうちょっとで朝ご飯もできるから」
台所から語りかける雪の声に心地よさが広がり、先程までの事が夢で良かったと思いながらも、おさまりつかない鼓動にうろたえる。
俺は背伸びをして辺りを見渡すと、住み慣れた部屋の内装にようやく鼓動が落ち着いてきた。
せんべい布団。
薄暗い電灯。
二人暮らしには丁度良いテーブル。
部屋の隅には俺にどこか似ているらしいクマのぬいぐるみ。
何より、すぐそばにあいつ、雪が居る。
夢で良かった。
俺が猫……なんてな?
そんな世界に安心したのは一瞬だった。
空間が歪み再び暗闇の中に押し戻された。
俺の頭を撫でまわす、嫌なんだけど心地いい。
そんな手に俺は思わず身体全体を伸ばした。
あれ? 俺って確かものすごく身体が固かったのに。
こんなに柔らかかったっけ?
ゆっくり目を開けると目の前には、だらけ切った男の顔で、俺を無造作に撫でるそいつの手が。
驚いて飛びのき、数歩歩いたところにある俺の背よりかなり高い姿見が目に入る。
あっ、やっぱり俺は。
猫だった。
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