俺の手を見ろ! 注※それは足です

やまくる実

第1話 俺は一体?

「聞いた?隣のアパート、空き巣が入ったんですって」

「やあね、物騒。うちの娘にも言っとかないと。小さい子は留守番させるのも心配ね」


 うるさい。

 誰だ?

 俺の眠りを妨げる奴は誰だ?





 昨晩の雨露あまつゆが葉から落ちそうなピリッとした気持ちの良い朝の空気の中、居眠り決め込んだ俺の邪魔をする大きな音に、俺の耳元は揺れた。



 それは低い野太い声と高い頭に響く声で、耳障りだった俺は、聞こえてきた斜め右上の方向にゆっくりと目線を移すとなんと巨大な人間が居た。


 

 あまりに驚いた俺は慌てて飛び起きたが、その時目の前の風景に違和感を覚えた。


 まだ眠く、頭はもうろうとしていたが、視界から入ってきている知識が、今まで自分が見てきたものと全く異なっていたのだ。





 まず地面が近い。

 手元を見ると手のひら全体に真っ白い毛でおおわれているのが目に入った。




 なんだ……? これは。




 二本足で立とうと試みるが、足に力を入れた俺はすぐに断念した。

 気が付くとまた地面が近い、這う状態の視線に逆戻り。




 身体は軽いのに二本足では上手く歩けない。行儀が悪いが這う姿勢の方がしっくりくる。



 ううむ……。



 まだ寝ぼけているのか?

 俺は異世界に来てしまったのか?



 地面に這いつくばりながらユックリと足を進める。

 湿り気を帯びた土は、毛には覆いつくされているが、靴を履いていない俺には優しく感じた。



 目線が低いと言うのは悪い事ばかりではない。

 良い匂いがしたと思えば目の前には、顔の大きさぐらいの花が飛び込んできて、その花には、頬の大きさぐらいの蝶が止まっている。


 この世界は全てが巨大化してしまったのだろうか?




 俺は少しづつだが足を進めた。



 手足の感触が固くなる。地面がアスファルトに変わった。


 日差しが強くなり湿り気をおびたアスファルトからの蒸発した水分が、俺の顔面を直撃し蒸し風呂状態だ。


 顔の目の前が、暑く、身体も暑い。



 初めて見るこの世界を歩き回るのは危険なことも分かっている。

 だが、このままでは状況も把握できない。



 警戒しながら足を進めると目の前には巨大な水たまりがあった。






 水たまりには俺の姿が映っていた。



 俺の全身は真っ白い毛に包まれている様だ。






 俺は。




 猫だった。

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