第3話 幸太郎と俺

 俺の名前は佐々木 辰也と言いたい所だが、実際は違う。




 俺には多くの呼び名があった。

 

 みーちゃん。

 白ちゃん。


 猫。

 ね~こ。


 色々な呼び方をされた。


 そう、もうお気づきだろうか?



 俺はつい先日まで普通の野良猫だった。


 気に入っている場所は神社の裏手の木の陰になっている穴の中。

 人間が神社にお参りに来た時に良く食べ物を分けてもらっていた。




 その時も、今も、まだ身体は普通の猫よりも小さい。


 親は気が付いたら居なかった。



 まあ、ちょっと、猫にしてはのんびりしていたらしい俺は、危ない時にも機敏に動けなかった。

 そんな俺に親や兄弟たちも足手まといと判断したのだろうか。





 その日も丁度、風邪も引いていてフラフラしていて、まっすぐに歩くこともままならなかった。



 数メートル先から、とても安心する懐かしい匂いがした。


 匂いの元は自分の顔ぐらいの大きさの白い布切れの様だった。


 引き付けられる匂いに身体が反応し、草の中から飛び出した俺は、目の前が光ったような気がした。




 身体は反応することが出来ず、目をつぶった俺は、大きな音に身体を震わせた。


 今考えるとあれは自転車だった。

 目の前にタイヤがあり、その時、俺の小さな小さな脳味噌は、まだ死んでたまるかと強く思ったんだ。


 身体全体が心臓になってしまったかのようにドクンと大きく鳴り響き、それと同時に、色々な記憶がいっぺんに降ってきた。




 そう過去の記憶とでも言おうか。




 俺の前世は……佐々木 辰也……だ。


 頭の中にねじ込まれたからだろうか? 全身に力を入れたからだろうか?




 記憶が降ってきたこともあり、頭がガンガンに痛くて身体も熱かった。

 目の前も霞んできた気がした。





「大丈夫か? 生きてるか?」


 道の真ん中で布切れ(ハンカチ)の上にうずくまる俺に、足を引きづりながら、近寄ってきた人間がいた。



 眼鏡をかけた地味な男という印象だった。



「フ―! (お前の方が大丈夫じゃねーだろう)」



 そう言っても、伝わるわけがない。



 目の前に居るこの男。

 名は井川 幸太郎と言うらしい。


 幸太郎の乗っていた自転車にぶつかりそうになったが、幸太郎が避けて転んだことにより俺は無傷だった。


 むしろ幸太郎は擦り傷だらけのようだった。




 幸太郎はその後、俺を病院に連れて行ってくれた。







 そして現在、俺は地味眼鏡……。いや、幸太郎の家の居候。



 俺の名前は……。






「ホロちゃ~ん? お腹空いたかな? ご飯あげようか」





 気に入らない。






 その名前も、だらけきったお前の顔つきも。

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