第89話 な、何が起こっている? (ホロ視点)
「ニャーオ」
意味も無く鳴いてみた。
なんとなく俺の声が幸太郎の狭い部屋の中で響いた気がした。
プディ一匹が部屋から居なくなっただけで、すごく殺風景に感じる。
あの日から幸太郎にたいして感じた事があった。
俺は部屋を抜け出したりしたから、もうケージから出して貰えなくなると思っていたがそんな事も無く、寧ろ部屋の中で自由に寛げる時間が増えたように感じた。
幸太郎には少しトラウマを植え付けてしまったのかもしれない。
幸太郎がなんの仕事をしているのか、いまだに分からないが、最近は外に出かける時間が増えていた様に思っていた。
だから俺も今回、ミーちゃんの事で外に抜け出してみようと思った計画も上手くいったのだ。
なのにだ。
あのけんから前以上に幸太郎が家の外に出る事が無くなり、仕事も電話やメール、FAXなどですましているのか分からないが、とにかく、俺の側から離れない。
まあ、今はトイレに行って居るから目の前にはデンだけだ。
デンもプディが居なくなって、少し元気がないような気がする。
さっきまで、かなり離れた所で居眠りしている様だったのに俺の横にべったりとくっついて俺の耳の匂いを嗅いでいる。
それとなく、避けているが、さりげなく側に寄ってくる。
と、今はデンではなく幸太郎の話だった。
幸太郎はそうじゃなくてもあんまり、他の奴と関わり持ってないみたいなのに......。
比奈ちゃんが家に来る様になってきて、少しあいつも心を開いて来たかな?
なんて思っていたんだが......。
しかし、ミーちゃん達の事があったし、あの時はああするしか無かったとはいえ、あの日、勝手に家を抜け出してしまった俺は罪悪感がつのっていた。
と言ってもまだ日数的に、そんなに経った訳ではない。
幸太郎の机に置いてあったスマホで確認したが、明日は雪が来る事になっている日曜日だ。
幸太郎が家から外に出ないのは、たまたま幸太郎の休みが続いているのかもしれないし、まあ、俺は気にしない方が良いのかな?
窓の外を見ると雲が多いからか、雨が降りそうな少し薄暗い色をしていた。
雪のあの時の表情......。
俺がこの姿だと......。
俺が辰也である事を知っている訳じゃないんだよな?
まあ、そんな訳ないよな、ある訳がない。
俺は顔をブルブルと振り、自分の猫らしくない行動を誤魔化す様に自分の身体を舐めた。
そういえば昨日も夢を見なかったな......。
夢も、見れば見るほど大変になっていっている気がする。
俺は次、夢を見た時、その役目を果たす事ができるんだろうか?
足音が聞こえ身体がビクッと反応した。
ああ、幸太郎が戻ってきたんだな。
俺は幸太郎に甘えてやるべきなんだろうけど、なんとなくそんな気になれず、ケージの中に自分から入った。
幸太郎が撫でようとしたのをスカした形になってしまった。
ケージの中で振り返った俺は、少し幸太郎が肩を落として落ち込んでるのが見えた。
まあすぐデンが幸太郎に向かって飛び込んでいったから、幸太郎は俺から冷たくされたのも忘れて、デンをデレデレと締りのない顔をしながら撫でている。
バツが悪かった俺はなんとなくホッとしながら、その様子を眺め、自分のお気に入りの布切れ(ハンカチ)の元に座った。
その布切れ(ハンカチ)から懐かしい香りがした。
俺はいつもだいたいこの上に座っている事が多い。
この上に座ると、なんだか心が落ち着く気がしたんだ。
だから俺の匂いしかしない筈なのに......。
この布切れ(ハンカチ)。
幸太郎と出会った時、俺はこの香りに惹かれて飛び出してしまい、幸太郎の自転車にひかれそうになったんだ。
あの時は気にならなかったが、雪の香りがする。
なんで今まで気がつかなかったんだ......。
「ニャーオ(雪〜)」
なんとなく布切れ(ハンカチ)に向かって声をかけてみた。
『ひゃっ。 な、なんで? た、辰君? あっ』
布切れ(ハンカチ)から声が聞こえた。
俺のよく知っている声。
聞き違う訳がない。
俺の心に直接、雪からの声が聞こえてきた。
俺は自分耳を疑った。
いったい何が起こっているか分からなかった。
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