第63話 過去、あの日あった出来事④ (雪視点)


 懐かしい顔、昔、この星に来る前、私の上司だった方。


 そんな顔を見たからか私は少しだけ身体の力を抜いた。


 自分のした行動を考えると、力を抜ける部分なんて、何処にもなかったのに。


 隊長は私と辰君の側まで歩いてきて、不思議そうな顔で私を見る。


 目を細め、大きな耳をピクピクと動かしている。


 辰君の傷はほとんど塞がってきているけど、目が半開きだ。 

 意識が朦朧としている状態といった所だろうか。


 今から隊長と話す話は辰君には聞かれてはまずい話だとは思うが、多分、今の辰君には聞こえないとは思う。



 聞こえてしまったとしたら、辰君が無事回復したとしても、私達の星の事情に巻き込む事になってしまう。



「ホロロ、今、星では、お前の事も含めて、ちょっとした騒ぎになっているんだ。お前も、行方不明になっていたから、巻き込まれていると思っていた。今までにない強い力を感じたから来てみたのだが......。どうも違う様だな?」


 太い眉を寄せてこちらを見る隊長。




 もちろん、猫の様な見た目の隊長が人の言葉を喋っては目立つ。


 表面的に猫の言葉で喋っていたとしても、その猫と私が、辰君に寄り添いながらシリアスな会話をする事も目立つだろう。


 隊長が大きく瞬きをした時、一瞬空間が歪み、私と辰君、隊長の周りに薄い膜がかかった。


 私の星のモノにはそれぞれ色々な能力がある。


 隊長が今、使った能力。

 空間を隠すシールドというものだ。

 現在、周りの人達から私達が見えなくなっている。



 私の自転車だけ公園に無造作に転がっているという状況だろう。






 え?




 私、今、行方不明になっているの?



 私はてっきり仕事を放棄したものとして、追われているものだと思っていた。



「隊長、どういう事? 何があったの?」



 私の声に焦る様に動揺を見せている。

 感情を表してはいけないから、こんな表情をする隊長を見るのは初めてだ。



「大変なんだ。我らが王の愛娘である、プディ王女が姿を消してしまったのだ。王が、取り乱していて、今、星は大混乱になっている。その少し前にお前も行方不明という事だったから、てっきり巻き込まれていると思っていたんだ。まあ、無事で良かった。とにかく、今はお前も早くこの仕事から引き上げて、星に戻った方が良い。下手したら、プディ王女の誘拐犯にされかねない」



 えっ?



 プディ王女、私と確か、同い年くらいで、王と違って、優しく、良識があり、住民にも人気で、そのプディ王女が、消えた?




 どういう事?



 今、私の星でも何かが起こっていると言うの?



 私は辰君と、二人で幸せに、貧乏でもいいから、ひっそりと暮していきたいだけなのに......。



 プディ王女が、消えたって、どういう事?


 王が大事にしていただろうから、ボディガードもちゃんといただろうに。




 一体、私の知らない所で、何が起こっているの?



 私は、辰君と一緒に居たい、それだけなのに。


「早く、早く元の姿に戻るんだ、ホロロ。そんな、力は残っていないか? そうだよな......随分力を使っていたものな、しかたない」


 

 隊長はそう言った後、後ろ足、二本だけで器用に立ち、前足で銃の様なモノをこちらに構えた。


 その時、辰君が薄目を開けるのと、隊長が、その銃からレーザーを放つのは同時だった。


「雪、危ない」


 声にならない様な、小さな声で辰君は叫び、また私を庇い、辰君の背中に隊長のレーザーが当たってしまった。



 スローモーションの様に時が流れた。

 辰君が私の大好きな辰君の姿が揺れて、少しだけ空中に浮かび上がる。

 状態が変化すると共に、傷口も完治した様に見えたが、辰君の姿は小さく、小さくなっていった。

 

 

 そして私の胸の中には猫の、真っ白の子猫の姿になってしまった辰君がいた。



 辰君が、猫に、なってしまった。

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