第108話 辰君? プディ王女と距離、近すぎじゃない? (雪視点)
井川さんの家の中に入るのは二度目だけど、動物を飼っている男性の一人暮らしにしてはすごく片付いていると言うか綺麗だった。
デンちゃんがいい子だからなのか分からないけど、壁紙もそんなに大きく目立った汚れはない。
井川さん、もしかしてすごく神経質なのかな?
もし、結婚したら、比奈ちゃん、すごく大変なんじゃないかな?
井川さんの為なら比奈ちゃん、頑張っちゃいそうだし。
まあ、まだまだ先の話だろうし、そんな事、私が考えても仕方ないんだけど......。
井川さんの後ろから私、比奈ちゃんと続いてリビングに案内される。
世間話をしながら和やかな雰囲気にも見えるけど、井川さんも比奈ちゃんも、なんだか少しおかしい。
比奈ちゃんがおかしいのは分かる。
井川さんと、上手く喋りたいから頑張っているんだよね?
比奈ちゃんから悩みはいっぱい聞いたし、井川さんの鈍感さもいっぱい聞いたから、比奈ちゃんの考えている事は手に取る様に分かる。
だけど......。
井川さんはどういう事だろうか?
比奈ちゃんの事、避けている?
目を合わさない様にしてる?
比奈ちゃんと井川さんの会話が微妙にズレているので私がなんとか二人の会話を繋ぐ。
比奈ちゃんはいっぱいいっぱいで気づいてないみたいだけど、私には井川さんが、比奈ちゃんを意識しているかの様に見えた。
私が余計な事をしなくても、二人は大丈夫みたいね。
そんな事を考えていた私は少し表情が緩んだ。
比奈ちゃんは井川さんとの会話のズレや、この空気をどうにかしたいのか、辰君(ホロちゃん)のケージの目の前にいるデンちゃんの所までプディ王女を胸に抱えて走って行った。
比奈ちゃんの後をゆっくり歩いて井川さんが追いかける。
比奈ちゃんがデンちゃんや辰君(ホロちゃん)と会話しているのを見て井川さん、安心した様なとても優しい顔をして笑っている。
井川さんがケージを開けて、辰君(ホロちゃん)がケージから出てきた。
比奈ちゃんの胸元から下されたプディ王女が、辰君(ホロちゃん)に近く。
表面的に見たら二匹の子猫の可愛いじゃれあいだ。
「ニャン。ニャンニャ?シャーナンニャーオォ(久しぶりね。そう言えば、私、すっかり貴方の事、ほったらかしだったけど、大丈夫? パワーが前より貯まっている様に見えるから上手くいったのね?)」
そうプディ王女が辰君(ホロちゃん)に言った言葉を私は聞き逃さなかった。
どういう事?
パワー?
ちょっと、辰君に何を言っているの?
私の中に少しだけ怒りの感情がわいてきたのがわかった。
辰君は見た目は私達の星の姿をしているけど、本来なら普通の人間なのよ?
プディ王女からして見たら辰君(ホロちゃん)の事をどんな風に考えているか分からないけど......。
プディ王女は今回、何のためにこの星に来たのだろう?
どうして王様に知らせずに極秘に動くなんてそんな行動をする必要があったんだろう?
「ニャンコニャーアニィアン(ああ、何とか上手くいったよ)」
辰君(ホロちゃん)がプディ王女に答えているのを聞いて、余計にわたしの眉間にシワがよった。
今日、なんとしてでもプディ王女と二人きりで話すきっかけを作る必要がある。
今日、ここに来たのは辰君(ホロちゃん)の食生活について井川さんに確認がしたかったんだけど、お腹がポッコリしているのは他の理由かも、しれない。
辰君自体、人間に戻れるか分からないけど、人間の時はコレステロールが高かったから、美味しいものの食べ過ぎは、どちらにしても良くない気がする。
辰君(ホロちゃん)の健康は私が守らなくちゃ、そう心に決めて、可愛らしい、辰君(ホロちゃん)とプディ王女のお喋りを見つめた。
辰君(ホロちゃん)ちょっと、プディ王女と距離、近すぎじゃない?
くすん。気にしないもん。
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