第9話 夢? やっぱり夢。


「辰君? どうしたの? お腹痛いの?」


 目の前には心配そうにのぞき込む雪の顔。

 肩まである雪の髪の毛が、数本俺の頬にあたる。


 風呂上りなのか少し湿っていて良い香りがする。


 俺は感触を確かめる様に、そっと雪の頭に手を伸ばす。

 猫っ気の柔らかい髪、頭のてっぺんが変な方向に跳ねている。


 まん丸くて白くて頬骨の高い顔。

 ちょっと頬が赤い。




「なんでもないよ。ちょっと太ったか?」


 そう言って俺は雪の腹をつまんだ。

 想像通りの柔らかいが少し弾力がある感触。


「辰君の意地悪」


 そう言って頬を膨らませ俺の手に自分の手を重ねた後、雪は自分の腹を触った。


 手が重なった時、雪の小指の横にある大きなイボが視界に入った。

 雪はいつもそれを気にしていたんだよな……。


「そうかな? 太ったかな?」


 そう心配そうに言いながら雪は眉尻を下げた。






 嘘だよ。


 触りたかっただけなんだ。






 今はもう夢と分かっているから……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る