第6話 元人間、だけど猫 


「ホロ~。ホロちゃ~ん。どこ行ったかな」



 幸太郎の声がするがちょっと待てーい。

 俺様は今、忙しいのだ。




 まあープリチーな俺様の姿が見えないのは心配だろうがな?




 俺は前世の記憶が戻っても猫としての習性が無くなった訳ではない。


 当然、小さな隙間に入り込むのも大好きである。



 テレビのラックと棚の隙間に栄養ドリンクの空き箱を見つけたのだ。


 俺はあの中に入ると言う使命がある。




 そうだ。俺の野生の血が騒ぐのだ。





 しかし……。




 デンに見つかると、この空き箱はすぐ潰されてしまうだろう。





 幸太郎に見つかると……。



 俺が遊ぶ前に捨てられてしまう恐れがある。

 幸太郎は几帳面だからな、あの箱の寿命は短いだろう……。





 俺は前足を構え箱に向かって突進しようと力を入れた。





「居た~」


 見つかった。

 気が付くと俺は幸太郎の腕の中だ、もがこうにも上手く伝わらない。





「どうした? 元気だな。ホロちゃん、デンと一緒に散歩行こうか?」


 そう言いながら幸太郎はハーネスを俺に着けようとしてやがる。


「に~(やめろっこのやろう)」



 精一杯嫌がったが結局つけられた。


 デンはお散歩グッズが入っているだろうトートバッグと自分のハーネスをくわえて持ってきている。


 またバッグの持ち手は涎でべどべとだろうな。



 くわえたままデンは幸太郎の周りをグルグル回っている。





 デン、嬉しそうだな、はしゃぎすぎると一階から苦情が来るかもだぞ?


 お前の足音は怪獣並みだからな!





 しかし……。


 ハーネスうっとおしいな、まあ、本来俺は元野良だからな!

 こんなモノつけやがって(この!この!)





 逃げられるのが怖いんだろうな。


 そんなリードに絡む俺を見ている幸太郎の顔といったら……!


 何て顔してやがんだ。




 俺は首をすくめて観念した。


 今日は仕方がない、俺が譲ろう。








 



 マンションの部屋の扉を開け外に出ると、すがすがしい外からの風に目を細める。


 階段の鉄格子からは隣の一軒家の屋根や、駐車場。

 上を見上げると通路の天井の隅間からは青空が見え隠れしていた。


 はしゃいでいたデンも幸太郎や俺のスピードに合わせてゆっくり歩く。


 階段があって危ないからな。


 俺は一歩目の階段を降りようとするも、前に転がり落ちる図が容易に想像でき、


「ヒャンっ」


 と思わず、弱音を吐いた。




 そう、俺はどんくさい赤ちゃん猫だ。

 いくら、過去の記憶があろうともな!



 広めの階段に気を付けようと、後ろ向きになり後ろ足から足を降ろそうとしたが、すぐに幸太郎に抱え上げられた。


 幸太郎の胸に包まれ、目線がいつもより高くなる。



 懐かしい目線だ。

 落とされたら困るから俺も大人しく幸太郎の腕の中で外を眺める。


 頬に風が当たって気持ち良い。

 幸太郎の胸の中は心地よい……。





 階段を降り終えた幸太郎はゆっくり俺を地面に降ろした。


 デンも再びはしゃぎだす。


 デンの頬の毛が嬉しそうに揺れ、息遣いも荒い。




 だけど俺の事も気遣っているのか、はしゃぎすぎるのは堪えているのかいつもよりはゆっくり歩いている。




 俺も、久し振りの外の感触を確かめながら、ゆっくりと足を進めた。






 幸太郎とデンと俺。


 並んで歩く。


 俺は一番隅っこ。





 デンもはしゃいでは居るが、俺を守ろうとしているのか周りをよく見ている。


 照れ臭い俺は気づかないふりだ。







 あっ今、あの草から何かが跳ねたぞ。


 あっまただ!




 見え隠れする小さな緑色に俺の身体は反応する。




 バッタだ。

 追っかけたいっ。




 前足に力が入る。


 そうしているうちにバッタは草陰の方に行ってしまった。


 ん~。






 ハーネスつけられて正解だった。

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