第103話 久しぶりの幸太君 (比奈視点)


 幸太君のマンションの部屋の前、私と目を合わせ頷いた朝峰さんがインターフォンをゆっくりと押そうとした。


「待っ、待って」


 思わず私は朝峰さんの腕にしがみつき引き止めた。


「大丈夫?」


 心配そうにそう声をかけてくれる朝峰さん。



 落ち着いて! 私の心臓!


 トクントクントクン。

 心臓の音が少しづつ早くなっていく。

 朝峰さんの腕を掴んだまま、私の腕は緊張で震えそうだった。


 朝峰さんが、私の事を考えて、インターフォンを押すのを待ってくれている。




 少しだけ朝峰さんの顔も緊張で強張っている様に見えた。


 その表情は私の為にそんな表情なのかな?


 朝峰さんは今回、私の事を全面的に応援してくれている。


 私が大泣きしたのを見られて以来、日常の様に朝峰さんと連絡を取り出して、少しづつ朝峰さんの良さを知っていった。

 なんだか、お姉ちゃんができたみたいで、嬉しかった。




 だけど、仲良くなればなるだけ、もしかして、朝峰さんも本当は幸太君の事、好きだったらどうしよう?


 私の泣き顔を見て、言い出せないんだったらどうしよう?


 そんな風に考える様にもなった。





 あー、色々考えても仕方がない。

 ウジウジ考えるのは私らしくない。


 朝峰さんの腕を離した私は一度大きく深呼吸した後、なんとか笑顔を作った。


「もう、大丈夫」


 私のその言葉に朝峰さんが優しい表情で頷き、ゆっくりとインターフォンを鳴らした。



 数秒後、インターフォンから「ちょっと待って下さい」と声が聞こえてきた。



 幸太君の声だ。


 久しぶりの幸太君の声にドキドキしながら待っていると、数分後に扉が開いた。


「あれ? 比奈ちゃんも? いらっしゃい」


 幸太君の第一声はそれだった。

 や、やっぱり急だったし迷惑だったかな?


「来る予定だった同僚に予定が入っちゃて、比奈ちゃん、予定ないみたいだったから一緒に来て貰ったんです」

「ダメだった?」


 朝峰さんの後からそう私が告げたら幸太君が少しだけ驚いた顔をして顔を背けた。


「別に、最近来ないから忙しいんだと思ってた」

 そう告げた幸太君は顔が少しだけ赤かった。


 やっぱり、急でびっくりしたのかな?

 なんて話したら良いか分からない。


 久しぶり過ぎて緊張する。



 玄関、廊下を抜けてリビング。


 久しぶりの幸太君の家だ。

 ウチと同じく動物を飼っているのに、足触りも良いし、清潔な香りが漂っている。


 あんだけ毎日の様に家にお邪魔して見かけた事がなかったけど、私の見てない所で女性の影があるのかと、どうしても疑ってしまうぐらい、いつも幸太君の部屋は綺麗だ。



 朝峰さんと幸太君が世間話をしている。

 私もそれとなくは会話に混ざったりしているけど、まだ天パっていて上手く話せない。


 久しぶりに見た幸太君はまた格好良くなった様に私には見えてしまう。




 私はカゴバックからプディを取り出しホロちゃんのケージの前にいるデンちゃんの側まで行きホロちゃんにプディを近づけた。


「ホロちゃん、デンちゃん。久しぶり、ほらプディだよ」


 私はなるべく明るい声を出した。


 久しぶりのホロちゃんとデンちゃん。

 ホロちゃんちっちゃいけど、またちょっとだけ丸くなったかな?

 デンちゃん、相変わらずホロちゃん大好きね。


 二匹は本当に仲が良いのよね。

 フフフッ可愛い。


 私の勢いにビックリしたのか少し横に避けたデンちゃん、だけどジッとホロちゃんを見つめている目はとても優しい。


 プディも、二匹に会えて、なんだか嬉しそう。


 ホロちゃんは自分だけケージの中なのが不満みたいね。

 身体の毛がケージからはみ出しそうな程、自分の身体を乗り出してる。


 幸太君が私の背後から近づいてきて、ケージを開けた。


 すぐ後ろに幸太君がいると思うとやっぱり緊張する。

 また心臓の音が煩くなっちゃう。




 ホロちゃん達を見て、やっと気持ちが和んだのに......。




 ホロちゃんが開いたケージからゆっくり出てきた。


 プディがホロちゃんに近づいて二匹でニャーニャー言ってる。



 子猫二匹、戯れあって可愛らしい。


 

 折角、朝峰さんがくれたチャンスを生かさないと、そう分かっているけど......。


 なんだか、久しぶりの幸太君を余計に意識してしまっている私は真っ直ぐに見れなくて、ホロちゃん達を見ながら現実逃避をしてしまっていた。

 

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