第46話 困ったな、全然集中できないぞ?(ホロ視点)


 前回がしんどすぎた。


 誰かの心を救う事は素晴らしい事だと思う。


 誰もが出来る事でもないし、浮かない表情を浮かべていたその人が笑顔になる瞬間なんてそうそう見れるものでもない。




 俺の心も温かくなる。

 胸の奥からこみ上げるものがある。






 だが今回も、その空気を頬の毛に感じた時、俺は嫌な予感がした。



 以前見た、誰かを救う夢と変わった点が数点あったからだ。





 まず画面。




 なぜか二つある!!




 どういうことだ?




 二つ??




 訳が分からないな……。



 それもパワーが溜まり別の事が出来る様になってきたという事だろうか?



 一つの画面に近寄って良く覗き込んでみると、画面であるガラス部分が心なしか湾曲している気がした。



 そして表面が少し水面の様に揺れている。


 ガラスの色は薄いブルーだ。



 俺は全体像を把握するようにその場から少し後ろに下がり、壁全体を見渡してみた。




 猫の目の形をした画面が二つ並ぶ壁。

 そこにはまるで大きな猫の顔がある様に見えて少し背中の毛が逆立った。





 あと、気になっていることがあるのだが、パワーが溜まっていることと関係あるのか分からないが俺の前足の小指の横が少し硬くなっているように感じ俺はそこをペロリと舐めた。












『はー……。』





 突然、大きなため息が聞こえ、顔を上にあげた。



 その音と共に左の画面の映像が始まり、動き出した。






 誰かの夢が始まったみたいだ。


 右の画面はまだ動いていないな。


 こちらの画面も何か映るのだろうか?




 俺は一匹しかいないから両方見るなんて不可能だぞ?




 ……。






 だいたい、俺は今、他の人を助けている場合じゃない。



 俺は雪と幸太郎の事で頭がいっぱいだというのに……。



 それを許してくれないのか画面には登場人物の女性がアップで映し出されていた。

 その為、皴やシミは薄っすらできているのが見えるが、その女性の顔自体は整っていて美人だ。



 だけど目の下にはクマもできていて顔色が悪い。

 額に汗も見えている。



 女性の目線を追うように画面も動く。




 女性はテーブルの下に落ちている、液体のシミや汚れかすを拭いている様だった。



 そのテーブルの前にある椅子には誰かが腰かけている。女性の目線からはどんな人物が腰かけているかは見えない。





 女性の髪は乱れて、かなり疲れている様だった。




 着ている衣服も定期的に着替えているような清潔感はある。

 だけどお洒落をしているような明るい印象ではなく毛玉が多い茶色いセーターに綿のズボン。


 日々の生活に追われている感じが見て取れた。



『しんどい、毎日繰り返される日常に目が回りそう。




はー……。




だけど、そんなこと言ってられない。弱音を吐いている場合じゃないわ』





 俺の心に女性の声が響く。



 画面が女性の目線から少し上がりテーブルの前の椅子に座っている人物を映した。


 そこに座っていたのは高齢の女性。


 服装は前開きのネル生地で暗めの赤と白のチェック柄、ズボンは先程の女性の目線から見えていたのはこげ茶でウエストがゴムのズボンだっただろうか。



 服の生地は毛羽立っていて傷んでいるように見えた。


 高齢の女性は服の襟元から膝にかけてフェイスタオルを敷いており、そのタオルの上にもこぼした食べ物のカスが見えている。


『お義母さん、今日は落ち着いているわ。だけど生気もないようね。日によっては急に手を付けられないくらい叫び出したり、興奮する事もある。肝心のあの人は仕事、仕事で、お義母さんの事は私に任せきり……。お義母さん、前は違ったのに……』





 あの疲れている美人の女性が今回の夢の主人公ということか?


 高齢の女性はボーッと、一点を見つめている。

 意識もしっかり無いように見えるな。














『何処に行ったの! 貴方のせいよ! 私のミーちゃん! ミーちゃん!』


 目を背けていた隣の画面から大きな声がした。


 俺は突然の声に身体全体が驚いたようにビクッと、飛び跳ね、聞こえてきた右の画面を見た。



 こちらの画面の映像は、左の画面が始まった時は動いていなかったのに……。



 同時に二つの映像なんてどういうことだ?

 先程も言ったが、二つも一緒に見るなんて不可能だ。



 俺は聖徳太子ではないんだぞ?




 右の映像には、高齢者が床に這いつくばっていて、興奮しているように目を見開いている。



 先程の高齢の女性の様だ。



 しかし左右の映像は同じ夢ではないと思った。




 まず服装が左の方の夢は冬服だった。


 隣の部屋も一瞬映っていたがコタツ見えた。




 そしてこの右側の夢はどう見ても夏服だ。


 半袖の袖ぐりから高齢の女性の筋張った細い二の腕が見えている。





 この事から二つの夢の時期が違うという事は明らかだ。



 二つの夢の時期が違うという事に意味はあるのか?






 高齢の女性の目線を追うと困ったようにうつむいている左画面で床を拭いていた女性の顔が見える。



『恐い。私を睨んでいるよ。ミーちゃんが居なくなったのもこの人のせいだ』



 高齢の女性の心の声が俺の脳内に聞こえてきた。





 ちょっと待ってくれ、美人な女性、ええとこの高齢の女性からすると、お嫁さんでいいのか?

 全然、睨んでいないぞ? 

 むしろ戸惑っているように見えるぞ?





 この人の目線からはそう見えるという事か?




 二つの画面は主人公がそれぞれ違って、時期も違うという事か?


 パワーが溜まってくるとできる事が増えるとプディは言っていたよな?




 確かに増えてはいるよ。




 だけど課題も増えている気がする。







 俺はこんなことをしている場合ではないんだ。



 雪のことだけ考えたいのに……。




 だいたい、今度はどうやって二人の心を救えばいいんだ?






 まだ、情報量が少なすぎる。



 ミーちゃんとは一体誰なんだ?







 困ったな、全然集中できないぞ?



 ちょっとまて、右の画面の隅には猫用のネズミのおもちゃも見えて俺の事を誘っている。






 俺は一体どうすればいいんだ。


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