第16話 キジトラにゃんこプディ
<比奈視点>
幸太先生の家になんとか入れてもらった私は、真っ白い、とてもキュートな白い子猫のホロちゃんを胸に抱きながら自分の作戦が上手くいったとほくそ笑んでいた。
<2時間前>
温かみのある白系の格子柄の家具に統一された洋室である私の部屋に今日も幸太先生と二人きりだった。
幸太先生は、家を出て一人暮らしをしているお兄ちゃんの友達とは、思えないほど落ち着いていて、どこかちょっとミステリアスだった。
「この前、教えたとこ、分かったか? って、言うか、本当に家庭教師なんているのか?」
学習デスクに向かう私の横の椅子に座った幸太先生の、少し不愛想な声、若干表情も硬い、まあそれもいつもの事。
きっと高志お兄ちゃんからのお願いだったから家庭教師も引き受けてくれたんだよな。
成績が下がったなんて嘘。
なんとか幸太先生、いや幸太君と話せる機会が欲しかった。
お兄ちゃんがまだ家に居た時、友達として紹介された時から、私は幸太君の事が気になっていた。
あの時、子供だった私はもちろん幸太君からそういう対象に見られてないこと分かってた。
年の差もあるし、こうして高校生になった私の事も、まだまだ全然子ども扱い。
「おい、聞いているのか? やはり分かりにくいのか?」
自分の教えた所を読み返しながら真剣に悩んでいる幸太君。困った時、眼鏡を少し上にあげる癖、変わってないな。
年の差を感じさせない、なんか不器用で可愛い所も目が離せない。
こんなに近くに幸太君が居る。
私の身体はこんなに火照っているのに、鼓動もこんなに早くなっているのに、幸太君は親友の妹としか思ってないんだよな......。
いいや、だけど私、諦めない。
「分かりやすいよ! 幸太先生に教えてもらうようになってから、少しだけど成績戻ったんだよ? ただね、ちょっと今、私、悩みがあって……」
私は分かりやすく表情を曇らせた。
「ん? どうかしたのか? 分かった高志のことだろう? 比奈ちゃんには悪いけどあいつの性格には俺も手を焼いているんだ」
うーん、なんか検討違いの事を言い出した。
だがココからが名演技の見せ所だ。
私は上目遣いで幸太君の目をジッと見つめた。
その後、表情を曇らせ、少し視線をそらし、自分の手入れされている黒いロングの髪の毛を軽くいじった。
「実はね、私、男の子の従弟が居るんだけど、その子、母子家庭でね、事情があって少しの間、2ヶ月程なんだけど、うちの家に居候することになったの、それでね……」
「にゃ~おっ……ニャ―」
その時、私の居室の扉の向こうから可愛らしい猫の鳴き声と、扉の下の方をカリカリと叩く音がした。
よし、タイミングばっちり。
私は心の中でだけ、にやけながら席を立ち、扉の方に歩いていき、ゆっくりと扉を開けた。
開けた扉の向こうから顔を覗かせたのはキジトラにゃんこ、我が家のアイドル、プディである。
ゆっくり入って来たプディは私の足に擦り寄った後、幸太君の所まで行き首をかしげながら小さく鳴く。
まだ子猫なプディは右目がゴールドで左目がブルーのオッドアイ。
少し毛足もホワッと長く、もう、なんとも言えない愛くるしさだ。
そんなプディを見て幸太君もいつもと全然違う表情だ。
もうプディの虜って感じだ。
よし、今がベストタイミング。
私は幸太君の隣まで歩き、幸太君の座っている椅子の斜め下にあったクッションに座る。
椅子に座っていた幸太君もプディを間近で見たいのか、私の隣に腰かけなおした。
私はプディの喉を優しく、くすぐる様に撫でる。
プディも満足したようにゴロゴロと喉を鳴らしている。
「そうそう、それでね、困っているのはこの子の事なの。さっき話してた従弟ね、猫アレルギーなの、私、面倒みに先生の所に通うから2ヶ月預かって欲しいの」
突然の事にギョッとした様にうろたえた様子を見せた幸太君。
私は目を潤ませ困った表情を作った。
「うちには犬が居るしな……」
断ろうとする幸太君の言葉を遮る様に私は真剣な声でゆっくりと声を発した。
「子猫も居るって言ってたでしょ? しかもそのワンちゃん温厚らしいじゃない? 私が学校に行く以外は、なるべく先生の家に行ってプディの様子見るし。迷惑かけないようにするから、プディもとっても良い子だから……ねっお願い」
暫く考えこんでいた幸太君だったが、私の勢いに飲まれたのかプディの可愛さにやられたのか、しぶしぶ了承してくれた。
<現在>
私の胸の中から下りたホロちゃん。
私の持ってきたキャディーバッグから出てきたプディとのご対面。
人見知りのないプディは積極的にホロちゃんに近づいているけど、ホロちゃんは慌てた様子でデン君の後ろに隠れた。
でも作戦は大成功。
これで幸太君と仲良くなるための時間を作ることに成功した。
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