第54話 少しの休息(ホロ視点)
気がつくと、ケージの鉄格子の向こうにはデンのスヤスヤ眠っている大きな顔があった。
水の流れる音がする。
きっと幸太郎が洗面所で顔を洗っている音だ。
カーテンがうっすら開いていてそこからキラキラした明かりが漏れている。
朝だ。
外からは鳥の鳴き声も聞こえていて、とても清々しい朝だ。
やはり、俺はあのまま、夢から出てしまい、朝まで眠ってしまったんだな。
俺は自分の不甲斐なさに俯き加減で項垂れながら、一息つき、自分の前足をペロペロと舐めた。
目の前で、デンが大きな欠伸をする。
口の中が全て見えてしまうほどの大きな欠伸だ。
俺とデンとの間にはケージの鉄格子があるし、俺はデンが呑気過ぎる程、呑気であると、彼の人柄じゃないな、犬柄を知っている。
だけど、普通のニャンコならこんな大型犬が目の前で、こんな大きな口を開けたら怖いだろうな。
そんな事を思っていたら、幸太郎が戻ってきて、ケージを開け、俺を覗き込むように見ていた。
幸太郎は目を細めて優しく俺を撫でる。
撫でられて、心地良くて、俺も目を細めた。
幸太郎、本当に撫でかた、始めより優しくなったよな。
この手の心地よさは、また眠ってしまいそうだ。
「ホロちゃん、昨日は寝相も良かったし、良く眠れたみたいだな。俺も安心して、ゆっくり眠れたよ」
幸太郎のその言葉を聞き、俺は少し、驚いていた。
幸太郎、いつも俺が起きた時、俺の目の前にいる事が多いと思っていたが、まさか、心配してくれていたのか?
ま、まさか、そんなに大事にされていたのか?
俺は何だか恥ずかしくなって、両前足で自分の顔を隠した。
すると、俺の横でクスリと笑う声がした。
猫の声だからクスリとも違うかもしれないが、目を細めて笑うプディだった。
「にゃ〜ご、ニャンニャン(自分が幸太郎にどれだけ大事にされているか自覚した?)」
プディは俺を見ながら余裕たっぷりな顔で妖艶に笑う。
プディのホワホワした、毛に光が反射して、後光がさした様にも見える。
やはりプディはすごい貫禄だな。
「にゃ、なーんニャン(そうだな、それよりまた夢の事で相談があるんだ)」
俺は少し照れ臭くなって、話をそらし、夢の事をまた相談しようと思った。
自分の力だけでどうにかしようなんて思わない。
俺のプライドなんてどうでも良い。
とにかく、誰かの力を借りてでも、どうにかして、おばあさん、お嫁さん、ミーの事を助けたい。力になりたい。
そう思ったんだ。
ところで。
俺が、真面目な、考え事をしているのに、開いたケージからでかい鼻を突っ込んで、俺の尻の穴の匂いを嗅ぐのをやめてくれないか?
デン。
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