第94話 どうしよう?! 辰君を守るためには (雪視点)
『ニャーオ(雪〜)』
「ひゃっ。 な、なんで? た、辰君? あっ」
自分の腕の中におさまるオーバーオールを着た熊のぬいぐるみ、辰吉から聞こえた辰君の声、と言っても声は猫(ホロちゃん)の泣き声。
私は急に辰君の声が聞こえてきた事からビックリしすぎて、思わず言ってしまった。
辰君って、辰君って言っちゃったよ!
ど、どうしよう。
これじゃー、何の為にホロちゃん(辰君)の前で、気づいていない振りをしているのか......分からないじゃない!
辰君が今、私の星のモノの姿、この星でいうと猫の姿になっている事は私の星のモノには知られてはならない。
そもそも、辰吉からこうして辰君、いやホロちゃんの声が聞こえたのは何故だろう?
私はコノ星(地球)に来ている他の私の星のモノに、気づかれない様に、ほんの少しだけパワーを解放した。
私の掌から少しだけ貯まった感情(パワー)を流すと、辰吉の毛が、一瞬硬くなり、ホワッと辰吉の周りに柔らかい光が灯り、その光から辰吉の感情や、その先にある、ホロちゃん(辰君)の所へと繋いでくれているモノの感情が流れてきた。
そのモノは感情を持ったばかりで、まだ、声を発する事は出来なかった。
だけど、私は、それが、私がすごく、すごく大事にしていたハンカチ(布切れ)だと分かった。
この布切れは私が辰君が幼い頃に飼っていた、クウロだった頃、私の側にずっと置いてくれていた。
幼い辰君から吸収した感情(パワー)は一時期、ココに貯めていた事もあったりする。
そして、私は辰君と離れている間、その布切れを身体に巻き付けたりして持ち歩いていた。
(布切れから辰君の匂いがして、なんだか安心したのだ)
そして、人間になってから、ハンカチとして、普通に持ち歩いてもおかしくない様に、違うハンカチにその布切れを縫い付ける形で縫い直して持ち続けた。
無くしてしまったと、気づいた時はとても......とてもショックだった。
なのに......。
なんの偶然?
それとも運命だろうか?
あの布切れが、あのハンカチが辰君(ホロちゃん)の側にあったなんて......。
そして今回のこの出来事。
辰吉に貯まった私の想いと、ハンカチに貯まっていた以前の辰君の感情(パワー)や私の想い(パワー)。
そして、分からないけど、ホロちゃん(今の辰君)からもなんだか私と同じ様なパワーが貯まってきている様に感じた。
その力が重なって、こんな現象を引き起こしているのだろうか?
「にゃー、にゃき? にゃんにゃごニャーオ?(ゆ、雪? 俺の事が分かるのか? )」
辰吉からまたホロちゃん(辰君)の声が聞こえてきた。
ホロちゃんの口調から、かなり動揺している事が伝わってくる。
ホロちゃんに私の声が聞こえてしまっている。
しかも、私がホロちゃんを辰君と分かってしまっている事も......。
「えっと、アワワ、辰君、わ、私......。ええとね、あ、どうしよう」
どうしよう! どうしたらいい?
冷静に冷静に考えて答えたら、まだ誤魔化せるかもしれないのに!
私は向こうの星にいた時は、感情を表に出さない、ちょっと冷血と言っていい程、冷たいイキモノだったかもしれない。
私の周りの人もそうだったし、そうしないと生きていけなかったから......。
だけど、辰君と会って私は180度変わってしまった。
そんな風に変わるまで、時間はかかったけど、今となっては辰君の前で表情など声だけでも、嘘をつく事が難しくなった。
それぐらい自分を偽れなくなってしまった。
今回もなんとか隠そうと頑張っていたけど......。
今更、冷静な言葉で作り話をするなんて無理に等しかった。
辰君は今回の事(猫になってしまった事)をどんな風に思っているんだろう?
どこまで覚えているんだろう?
もしかして全部忘れて、自分は猫と思い込んでいて、生活にも馴染んでしまっている。そんな風に思ったりもしたけど......。
辰君(ホロちゃん)は実際でも今でも私に向かって、ちゃんと私と認識して話しかけてくれていた。
辰君(ホロちゃん)は何を思って、抜け出したのか分からないけど、井川さんのアパートの前で再会した私に向かって、一緒懸命に話しかけ様としてくれていた。
私は聞こえない振りをしてしまっていたけど......。
私には伝わっていない。そういう辰君の想いも伝わって、辛かった。切なかった。
辰君(ホロちゃん)はちゃんと覚えている。
あの時のあの出来事や細かい所までは覚えているかは分からないけど......。
少しの沈黙の後、辰吉から大きな音がした。
少ししかパワーの解放はしてないから、向こうの映像ははっきりは見えない。
何の音? どうしたんだろう?
辰君(ホロちゃん)に何かあったのかな?
私はなんだかすごく不安になった。
心配になって向こうの声が聞こえやすくなる様に、辰吉をギューッと抱きしめた。
「にゃんにゃーニュンニャーニャン(雪、俺は雪と、もしまた喋れたらずっと言いたい事があったんだ。これが現実だか分からないが、聞いて欲しい)」
辰吉を通じて、ホロちゃん(辰君)の真剣な声が耳元で届く。
ちゃんと声が聞こえたから大丈夫なんだよね?
私はほっと胸を撫で下ろしながらもホロちゃん(辰君)が言っている内容を頭の中で繰り返した。
言いたい事?
何?
何だろう?
だ、だけど、私も私が何故、ホロちゃんが辰君だと分かっているか、話さなくちゃ駄目かな?
辰君もきっと疑問だらけだよね?
私も今までの事、本当の事を話さないといけないかな?
でも、話してしまうと辰君を巻き込んでしまうだろうか?
もう充分巻き込んでしまっているけど......。
ベッド横の窓から、少しだけ生温かい風が私の頬を撫でる様に吹いた。
一瞬我に返った気がしたけど、まだ私はパニック状態のままでどうしたら良いか分からなかった。
どうしよう?! 辰君を守るためには、どうすべき事が正しいのだろう?
私は本当の事を話す事が......それが正しい事か分からない。
本当の事を......話しても良いのか......。
色々色々考えすぎて、頭がパンクしそうで、私はその覚悟がまだできていなかった。
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