第93話 思い出したくなかった過去 (ホロ視点)

「にゃんにゃーニュンニャーニャン(雪、俺は雪と、もしまた喋れたらずっと言いたい事があったんだ。これが現実だか分からないが、聞いて欲しい)」



 俺の声は、少し掠れていた。



 緊張で、震えてしまっていた様だ。


 

 俺のいつもとは違う声に、ソファーに座って読書をしていた幸太郎が、ちょっとだけ反応し、こちらの方に目線を動かした。


 俺は慌てて取り繕い、いつも通りに何事もなかったかの様に毛繕いをしてみせた。


 いつもと変わらない様な俺を見て安心するように再び本に目線を落とした幸太郎。



 俺はそんな幸太郎を見て、少しホッとし、足元にあったハンカチをそっと撫でた。



 手が痺れる様なジンワリとした熱が俺の手に伝わった。



 ハンカチが、熱を持つ様に温かくなっている気がする。



 俺の猫肌の温もりから熱が移ったとか、そんな話ではなくて、ハンカチ自体が感情を持ってしまっている様な、そんな熱。そんな温もりだ。





【雪とまた話がしたい】



 それは、俺が、あの日、幸太郎とデンと三人で散歩して、あの思い出のある公園で雪と再会した時からずっと......。


 ずっと思っていた事だ......。




 その時、頭が一瞬、急激に痛くなり、それと同時にキラリと光る刃物、それを持った青白い男の顔が浮かんだ。





 今の映像はなんだ?





 思い出そうとすればするほど頭がズキズキと痛む。






【もしかして俺は、通り魔か何かに刺されて死んだのか?!】





 頭の中で断片的に映像が流れる。



 ボヤけてしっかり見えないが大量の涙で顔全体が濡れている雪の顔も浮かんだ。



 コレは、俺が忘れていた記憶のかけら?


 


 だけど、ボヤけている映像しか思い出せず確信はないが......やっぱり俺は死んでしまっていたのだな......。




 確かに、死なずに猫になるなんて、漫画かアニメの世界しかありえないものな......。




 自分が思っていた以上にショックを受けている事に俺は驚いていた。




 俺は過去を取り戻す事は出来ない。




【今を生きるしかない】




 そう自分に言い聞かせているつもりではいたが、心の中では納得していなかったんだな......。



『た、辰君、あ、あのね』



 ハンカチの熱を通じて、俺の心の中に雪の声が響く。


 雪の声も緊張しているのか少し硬く掠れている様だった。


 雪が深呼吸して息を整えている音が聞こえる。


 息遣いの音があまりに間近で、ハンカチから、雪の柔らかい感触や香りまで伝わってきた様な妙な錯覚におちいった。




 ドクドクドクドク。



 俺の心臓の音。俺の身体中に響く様に段々、段々と、大きくなる。



 ドクドクドクドク。



 コレは雪の心臓の音か?



 雪の心臓の音と一緒に息づかいも俺の心の中に響いて、なんだか目の前に雪がいる様なそんな錯覚にもおちいっていた。


 思わず俺は目を瞑り、雪の気配? (と言っていいか分からないが)に集中した。


 



 雪も緊張しているのか?



 そうだよな。死んだと思っていた俺の声が聞こえてきたんだものな。



 俺もずっと伝えたかった事を言いたい。


 この夢の様な出来事も、どのくらい続くか分からない。




 だけど、雪も何か話したいのかな?




 雪の息遣いを聞きながら、お互いの沈黙は続いたがなんだか心地良かった。




 


 ハッハッハッハッ。


 そんな思いに浸っていたら耳元にデンの息遣いが聞こえて俺の顔を覗き込んでいるデンの顔が間近にあった。




 俺はビックリして、一気に目が覚めた気がした。


 

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