第86話 そんな所まで、見ちゃイヤン!(ホロ視点)

 雪の背中を、今は大きく見えるけど、俺が側にいた時より細くなってしまった背中を見送る。



 一瞬、ほんの一瞬だけど、雪の背中と、俺が昔、人間の子供の頃、何より大事にしていた、綺麗な毛並みの黒猫、クウロの事がダブって見えた。




 ど、どういう事だ?


 俺の目はまたおかしなモノが見える様になったのか?


 慌てて前足で顔を隠し、瞬きをした後もう一度見たら、いつも通りの雪の背中だった。



 

 幸太郎はそのまま、雪を見送るのだと思っていたのだが、俺を胸に抱いたまま、比奈ちゃんの方を向き、話しかけていた。


「比奈ちゃん、せっかく来てくれて悪いんだけどさ、今日はもう帰ってもらえるかな? 

ホロも疲れているし、後、こんな事があったからと言うか、あのさ、急で悪いんだけど、プディの事も、もう預かれないよ。

これからは、こんな事はない様にするけど、もし飛び出していたのがプディだと思うと......。


ごめん、比奈ちゃんの家の事情もあるだろうけど、俺は今は、ホロとデンの二匹とちゃんと向き合いたいんだ」


 比奈ちゃんは少し驚き、何か言い返そうとしていたけど、幸太郎の意思が強く、変えられそうにないと思ったのか口を挟むのをやめてプディを抱き上げた。


「分かった。今まで無理を言ってごめんなさい。

で、でもね。プディも今ではデンちゃんもホロちゃんの事も大好きだと思うの。

このまま会えなくなるなんて、辛いと思うの。

だ、だからこれからもプディを連れて遊びにきても良い?」


 比奈ちゃんはそう言いながら切なそうに幸太郎と俺を見た。


 頭を勢いよく掻きながら上を見たり下を見たりと、比奈ちゃんの言葉に少し考えている様だったが、幸太郎は「良いよ」と言った。



 そうして、雪と比奈ちゃんは帰っていき、部屋の中は俺とデン、幸太郎だけになった。



 



 いつも通り長閑な時間が流れると思っていたが、幸太郎のその後の俺に対する溺愛ぶりが、異常さを増した。


 まあ、ちょっと脅かしすぎたかな?


 だけど、仕方がなかったんだ。

 ミー達の事もあったしな。



 現在、俺が怪我とかしてないか、幸太郎からありとあらゆる所をチェックされている。


 そう、大人の男である幸太郎から、あんな所やこんな所まで、チェックされるのだ。




 お、おい、勝手にそんな風に足を開くな。


 まあ猫は筋肉が柔らかいから痛くはないが、は、恥ずかしすぎる。



 人間の時の記憶がある俺は、幸太郎の、その行動は拷問に近かった。




 だ、ダメだ、そんな卑猥な部分、見る必要ないだろう?


 ジロジロ見るんじゃない!


 そんな所まで、見ちゃイヤン!


 なんて言っても、聞いちゃくれない......。

 子猫な俺は非力だった。




 幸太郎があまりに心配そうに俺をくまなく観察するからか、幸太郎がトイレに立った時にデンも俺の間近まで寄ってきて心配そうに俺を舐め回し、しまいにはまた尻の匂いを嗅いでいる。



 俺は何処も怪我してないんだ!


 まあ、幸太郎とデンの愛情も感じる事は出来たけどな。


 




 そう言えば、雪と比奈ちゃん、一緒に帰ったけど、大丈夫だったんだろうか?

 

 プディも行ってしまった。


 これからもまた夢も見るだろうに、プディが帰ってしまったら相談できないから俺も困る。




 とりあえず、今日は色々あって疲れたから、まあ一眠りするか。



 デン、だからいつまで俺の尻の匂いを嗅いでるの。


 もう、いいから。そう言いたいが、デンには伝わらず、俺はデンが嗅ぎにくい様に、軽く尻の穴を尻尾で隠す様に丸くなった。

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