第69話 ミーちゃんは生きているんだ (ホロ視点)

『何故声が聞こえるかなんて、今はどうでも良いだろう? 


どうなんだい? ミーちゃんの事大事に思っているかい? 


もし、目の前にミーちゃんが現れたら、たとえ、どんな姿だろうと以前と変わらず同じ思いをぶつけることが出来るかい?』



 


 


 

 俺は足だけが黒い白猫、オヤブンさんの頭の中に向かってたたみかける様に言った。



 

 俺がこんな姿になってしまったとしても、もし思いが通じたなら変わらず雪は俺の事を好きでいてくれるだろうか?



 

 俺はいつのまにか二匹の、ミーちゃんとオヤブンの心情と自分の心情を重ねてしまい感情的になってしまっていた。



 


 

 俺の言葉の勢いにびっくりしたのか大きくブルブルと身体を震わせていたオヤブンさん、俺と変わらないほどの勢いで頭の中に語りかけてきた。



 


 

『ミー、そんなこと言っても、もうミーは戻って来ない。


あの時の、ミーがあの鉄の塊に襲われる場面、映像が何度も俺の頭の中で流れるんだ。


俺は、悔しくて悔しくて、もしもう一度あの時に戻れるなら、俺が代わりに轢かれても構わない。



 いや、嘘だ。なんとかミーも俺も無事で、また一緒に夜の街を散歩をしたい。


目の前にミーが現れたら? 


冗談でもそんなこと言うなよ。こんなに探してるのに、待っているのに逢えないんだよ。


分かっているんだ。もういないって……。諦めなきゃいけないって』



 オヤブンさんの心の声に、切なさも伝わってきた。



 俺はまだマシかもしれない。


 雪は生きている。



 同じ時代に生きている。


 運良く俺はその事を比較的早く、知る事が出来た。



 だから何かきっかけがあれば、俺とは分かって貰えなくても、また逢う事は可能。


 そう思い、それを毎日、夢見ていた。



 俺はだから前向きになる事が出来たんだ。




 ゆ、雪、俺、俺、なんでこんな身体なのか、猫なのか、覚えてないけど、死んでしまったのかな?



 そうだよな。



 死なないと、猫になんてならないよな?



 雪、雪には、寂しい思いをさせたよな。



 そうじゃなくても泣き虫な雪は、きっと、いっぱい、泣いたよな?




 おおっと、違う違う、今は、ミーとオヤブンさんの事だよ。



 俺はオヤブンさんの気持ちを聞いて確信した。


 オヤブンさんは、どんな状態になってしまっていても、ミーちゃんが生きてさえいれば、それだけで良い。


 そう心から叫んでいる様に聞こえた。



 もしも、ミーとオヤブンさんを逢わせて、オヤブンさんがミーに対して、ミーを失望させる様な態度を取ってしまったら、そう思うと怖くもあった。



 だけど、オヤブンさんの悲痛の叫びが俺の心の背中を押した。



 


『ミーちゃんはココにいる。生きているんだ。傷を負ってしまっているけど、ちゃんと、生きているんだ』




 俺の心の声を聞き、信じられない様な表情を浮かべたオヤブンさんは、家の中の麻沙子さんやおばあさんに気づかれないように、素早く家の敷地内に入ってきた。


 それはもう忍者の様な素早さだった。


 そしてオヤブンさんは、窓からヒョッコリと顔を出してキョロキョロと家の中を見回した。

 それは丁度塞ぎ込んでいる、ミーが顔を上げた時と、同じで。


 いつもはオヤブンさんが近くまで来た時は奥の方、見えない所に隠れていたかもしれないミーちゃんだったんだろうが、オヤブンさんの素早さに反応出来なかったのだろう。




 オヤブンさんとミーの目が合った。




 オヤブンさんは本当にビックリした様に身体を飛び上がらせた。

 

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