第13話 あの頃、大事だったアイツ

<辰也視点>




 あれ?



 これは、いつもの夢の中か?



 いや、いつもの夢はもっと、そこに実際自分が居るかの様にリアルだが……。

 今日は、またちょっと違う。



 自分の目がそのままテレビの画面になっているように、

 もしくは自分は別の視点からその映像を眺めている。

 そんな風に表現したら伝わるだろうか?


 とにかく目の前には5歳ぐらいの少年、その横には真っ黒い子猫が寄り添っている。




 少年の顔には懐かしさを感じた。


 どこかで見た事がある。


 少年の目からは涙が一粒、また一粒と流れていて、

 少年の膝の上に乗った黒い子猫がその涙を拭うように舐めていた。


「クウロ、くすぐったいよ」

 

 少年が呟くと、黒い子猫は少年の目の下を舐めた。


 始めは控え目にペロペロと。


 子猫の温もりと、ざらついた舌の感触に少年の頬が緩んだ。


 そうすると黒い子猫は遠慮なしに少年の顔を舐めまわし始めた。


 黒い子猫の足は普通の猫と違い、前の片足の指が6本、両方の足で12本あり、

 だがその足がまたユニークで可愛かった。


 そのプニプニした両前足が少年の頬を撫でるように優しく叩く。


「ふふっ、分かった、分かったよ」


 クスクスと小さく笑っていた少年は、次第に大きな笑い声になっていた。






 その映像をぼんやりと見ていた俺は、

 今更、どうして、こんな夢を見たんだろう?

 そう不思議に思いながら、

 また何とも言えない様な懐かしさと胸の痛さを感じながら、その映像を眺めていた。





 あの泣いている少年は、幼い頃の俺で、

 その隣に居るのは、俺が大事にしていた黒猫のクウロ。

 いつの間にか居なくなってしまった。


 死ぬまで看取るつもりだったのに……。


 猫は死ぬ姿は見せないと言う。

 だけど、気まぐれに出て行ったと思いたい。


 クウロ、今、お前は何処に居る?







 なんで、こんな夢を見たんだろう……?





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る