第66話 私が綺麗? (ミー視点)



 私は、私はミー。


 目の色はグリーン。

 鼻の横に1cm四方に丸く黒い毛が生えている。

 ちょっと間抜けっぽい顔だけど、スリムな猫なの。

 

 昔は、「ミーちゃんは可愛いね、綺麗だね」そうよく言われた。



 だけど、もう、大好きなおばあさんには、『ミーちゃん』と、そう呼んでもらえない。



 おばあさんは、あの日から私を見てくれなくなった。



 あの日、私はおばあさんを助ける事で、必死だった。


 あの鉄の塊。


 すごいスピードで私を襲った鉄の塊。


 私の家にもある。


 私も中に入った事はある。車って言うんだよね。



 凄い速さで移動ができる。

 私もそれに乗ると、カゴに入れられてはいるけと、カゴの隙間から鼻を出すと風が当たって気持ちが良くて......。



 だけど、安心して良いのは止まっている間だけ、外で、走っている、アレ(車)には気をつけろと言われていたのに。



 あの日、おばあさんの様子はおかしかった。


 何かを探す様にふらふらと家を出て行った。


 おばあさんが出て行くのを見て、お嫁さんの麻沙子さんが、慌てて追いかけ様としているのが見えた。


 麻沙子さんの慌てた様子、切羽詰まった表情、凄く良くない事が起こっている。

 直感でそう思った私は思わず飛び出しておばあさんを追いかけたんだ。



 麻沙子さんの必死の形相から、おばあさんを連れ戻さないと。

 そう思った私。


 だけど私は普段、いつも家の中にいる。



 外は慣れていない。


 慣れていない私が行っても、こうなってしまう事は分かっていたのに。






 まあ、夜にちょっとだけ抜けだす事はあったよ?



 私にも好きな猫が居たからね。



『名前はない。オヤブンって呼ばれている

人間には黒い足のニャンコって呼ばれている』



 そう言っていたあの猫とは私が好奇心から夜に家を抜け出した時、迷子になったあの日に出会った。



 あの猫は私の事を知っている。



 そう言ってくれた。


 たまたま入った家の窓から見える君はとても綺麗で魅力的だったと言って口説いてきたの。




 それから私は、夜、家の人、おばあさんや麻沙子さんやお父さんと呼ばれている人(麻沙子さんの旦那さん?)が寝静まった時、家を抜けだす様になった。



 オヤブンさんは、私が外に出ると、いつも決まった所で待っていてくれた。



 夜風に吹かれてオヤブンさんのちょっと癖づいた毛がゆれる。

 月明かりが綺麗。

 その淡い光が私達を照らす。

 オヤブンさんも余計に格好良く見えた。



 二匹での夜の散歩は短い時間だけど、ドキドキして幸せだった。







 だけど、こんな、私はこんな姿になってしまった。



 あの日。



 こんな姿になってしまったあの日。



 私は、病院と言う所から、やっと戻ってきたあの時。

 鏡に映った自分を、他の猫だと思った。


 奇妙な顔の猫がいる。

 そう思った。



 何故か、おばあさんが反応してくれない。


 私の声を無視する。


 そう思った時。



 何かがおかしいと思った。



 そして、ご飯が食べにくい。


 顔が痛い。


 何が起こっているか分からない。


 そう思う中で、あの、奇妙な猫が、鏡と言うモノに映った奇妙な猫が自分だと、自分の顔だと自覚した。



 絶望しかなかった。



 私の顔が......。




 だから、おばあさんは私を無視するの?


 




 こんな姿、見せられない。


 もうオヤブンさんに逢えない。


 



 綺麗じゃなくなった私は、もう、嫌われてしまう。



 






 大好きだった、おばあさんも、あの日以来、私が鉄の塊、車に襲われてから、こんな顔になってしまってから、見向きもしてくれなくなった。









 私は今日も、部屋の隅の方にいた。



 時々、オヤブンさんが、窓の向こうから覗いているかもしれない。

 そんな風にも思う。



 私は隠れる様に、いつも部屋の隅の方にいたんだ。






 そんな時、目の前に、可愛らしい白い子猫が現れた。







『ああ、とうとう、この日が来たか......。』



 私はそう思った。



 私は、こんな姿になった私は、捨てられてしまうんだ。



 おばあさんは相変わらず私を無視したままだ。


 しかも最近は前みたいに笑わなくなった。

 

 麻沙子さんだけは私に優しかった。

 

 だけど、それも今日まで、なんだね......。






 変わりに、この真っ白な可愛らしい子猫がこの家に住むんだ。



 そう思った。






 その子猫は項垂れている私を見て言った。


 


『ミー、ミーちゃんは、確かに傷はある。だけどな、目もすごく綺麗だし、毛並みも、今はこんなに綺麗だよ?』


 耳を疑った。



 こんな私を綺麗だと言う。



 始め、私の事を馬鹿にして言っているのかと思った。


 だけど、その白い子猫は私の目を見て、真剣に優しい声でそう言っていた。



 それでも、どうしても私はそう思う事は出来なかった。






 綺麗?



 こんな風になってしまった私が、本当に綺麗?




 真剣に私を見る真っ白で綺麗な子猫。





 

 嘘だと分かっていても、少しだけ私の胸に響いた。

 

 

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