第105話 えっ? 比奈ちゃん? (幸太郎視点)


 窓からは日が差し込み、朝早いのに気温も高めで、気持ちが良い朝だ。


 こんなポカポカした陽気な天気の日は読みかけの本を片手に昼寝でもして、ノンビリしたいものだが、今日はそんな事も言ってられない。


 今日は日曜日。雪さんが再び訪ねてくる予定になっている。


 確か同僚の人をもう一人連れてくるんだったんだよな?


 ホロを触りたいんだったか?

 この前、思う存分触っただろうに、あれだけじゃ物足りなかったんだろうか?




 俺は現在、いつもより手早く掃除をしていた。

 高志も来てくれるって言っていたのに、結局用事が出来て来れないって言っていたし......。


 大丈夫だろうか、俺。



 デンがそんな風に掃除しながら考えている俺の後ろを着いて回っている。


 ちょっと邪魔だが、可愛いからそのままにさせている。


 デンが飛び跳ねると更に毛が舞うが仕方がない。

 俺がそれだけ早く手を動かせば良いだけだ。



 俺は掃除道具をしまい、ホロのケージに近づいた。


 ホロがケージの中で身体を伸ばした後、自分の前足を舐めている。


 可愛い。天使だ。ココに天使がいる。


「ホロちゃん? 起こしちゃったかな? ゴメンな? ご飯、食べるよな?」



 俺はホロを驚かせない様になるべく優しい口調で声をかけた。


 ケージを開けると、トテトテと可愛らしく歩いてきたホロが俺の膝に右前足を乗っけて、ポスポスと押している。


「にゃーおぉ」

 高めの甘ったるい可愛らしいホロの鳴き声に俺の表情筋が緩む。


 か、可愛い。

 その場でホロの可愛さにトロケそうになった俺だが、なんとか顔を引き締める。


 雪さんが来た時まで、こんな顔になったらまずいからな......。


 こんなに可愛いらしいと、ついご飯を奮発してしまいそうになるが......。


 相変わらず真っ白でチビっちゃくって可愛らしいが少しだけ、お腹が出てきた気がする。


 まあ細々より全然良いが、食べさせすぎかもしれないな、気をつけないとな。



 ホロにご飯をあげて、食べていたのを見ていた時、インターフォンがなった。



 雪さん、来たかな。



 慌てて玄関に向かおうとした時、なんとなく、気配を感じ、振りかえると、先程までご飯を食べていたはずのホロが、俺の後ろから着いてきている。


 そうか、俺と離れたくないんだな。

 可愛いやつめ。


 俺はインターフォンでちょっと待って欲しいと雪さんに告げてホロとホロのご飯をケージに入れて鍵をかけた。



 ホロ、ココで大人しく待っててな?


 そう心の中で言った後、ちょっと早足で玄関に向かった。


 鍵を開けて扉を開くと、雪さんともう一人。


 てっきり雪さんの同僚さんと思っていたら、ちょっと俯いていて真っ黒い綺麗な黒髪しか見えないが、見覚えのあるツムジだった。



 ちょっと前まで、よく見ていた。


 姿を見せなくなって俺の頭の中を占領し始めた存在。



「あれ? 比奈ちゃんも? いらっしゃい」


 俺の口から思わず出た言葉はそれだった。


「来る予定だった同僚に予定が入っちゃて、比奈ちゃん、予定ないみたいだったから一緒に来て貰ったんです」

「ダメだった?」


 雪さんの言葉の後に続けて、比奈ちゃんが、そう言いながら、やっとこちらを向いた。


 したから見上げたからか丁度上目遣いになっている。


 どう言う心境だか分からないが、大きい目が少しだけ潤んでいる。


 しかも今日はいつも見ていた格好より大人っぽく、だけど可愛らしい。



 俺はそんな比奈ちゃんを見て、なんだかドキマギしてしまい、少し顔を背けた。

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