第41話 アナタの声が聞きたい(雪視点)

 明日は空き時間、何しようかな?

 

 小さなコタツ机の上でノートを開き、明日の通常業務の空き時間にするレクリエーションを考えていた私は頭を悩ませていた。



 私の仕事は介護士だ。

 ベテランという訳ではないけど、まあまあ長く勤めている方だと思う。


 高齢者の方達は色々な方が居て、身体や心の不自由な場所がそれぞれ違う。


 その日その日で、調子のよい日と悪い日もある。

 だから、なるべく皆が楽しめる事が良いんだけど……。


「辰……、辰吉?どう思う?」


 辰君と言いそうになり慌ててクマのぬいぐるみの名前を呼ぶ。


 もちろん辰吉が答えてくれる訳もない。


 

 紅茶を一口飲み、明日の事を考えようとしていたその時、紅茶の赤い色が血液の色に見えた。





 思い出したくない記憶が頭をよぎった。





 自分の胸の中でどんどん冷たくなっていく大事な人。

 傷口から血液が止まらず、自分の力ではどうにもならなかった絶望感。


 考え出したら暗い記憶の縁から戻れなくなる。


 


 フラッシュバックしそうになったが無理やり現実に頭を戻した。


 明日も仕事だ。

 

 利用者さんや、入居者さんには認知症の方が多い。

 認知症でなくても歩くのが不自由な方、目や耳が悪い方、私達、従業員の気のゆるみが大きな事故につながるのだ。


 気を引き締めないと。


 明日は明日の事だけ考えないと……。




 私には本当は役目がある。


 大事な役目が。


 その事は辰君にも秘密だった。

 

 私は辰君に言っていない事が沢山あった。


 初めから話していたら何か変わっていたのかな……。





 考えても仕方がない、今は明日からも生きていかなければならない。



 だけど……。






 辰君。



 あなたの声が聞きたい。



 頭撫でてとか、ギュウしてとか……。

 我儘言わない。


 愚痴だって何だって聞くから……。




 ただ声が聞きたいの。


 


 


 ただ、声が聞きたい……。 


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