第25話 ごえんの価値(ホロ視点)

 気が付くと、この前見た光景が目に映った。

 暗闇の中、目の前に大きな画面が広がっている。

 この前と違っているのは、猫の目の形の枠が、本物の猫の目の周りの様に毛深くなっている様だった。


 気温はやはり、少し冷たい。

 画面の中を覗き込むと、20代半ばぐらいの年齢の夫婦らしき人達と、5歳ぐらいの男の子と2歳ぐらいの女の子が映し出されていた。

 カメラの目線の動きから今日の主人公は5歳の男の子の様だった。



 始め映し出されていたのはリビング。

 男の子の妹であろう女の子が泣いていて、母親が駆け寄る。


「次、お父さんの番だよ?」

 父親も男の子と話していたが、妹が泣き止まないからか妹の方に駆け寄る。


 目の前には、父親と積み上げていた積み木、慌てて駆け寄った父親の足に引っかけて崩された積み木。

 

 一人残された男の子は、じっとその光景を眺めていた。

 父親に渡そうとした積み木のカケラを片手に持ったまま。







 また違う場面。


 神社の様だ。


 この神社は見覚えがある。

 俺が幸太郎に拾われる前、昼寝場所として入り浸っていた神社だ。

 裏手の木の陰になっている穴でウトウトするのが好きだったんだよな。


 引き続き出てきた、あの男の子、年齢は、さらに若い様だ。3歳ぐらいか?

 過去の事を主人公の男の子が思い出しているという事なのか?


 父親と母親と男の子。

 妹の姿が見えないから、まだ生まれる前という事か?


 母親のお腹が膨らんでいる。

 妹はお腹の中という事か?


「お母さんから元気な赤ちゃんが生まれてくるように、今日はお参りするんだぞ? お兄ちゃんになるんだからな? しっかりしないとな。今日も5円玉を賽銭箱の中に投げるんだぞ?」


 そう言って父親は、男の子が賽銭を投げやすいように男の子を抱え上げた。


「よーく、狙えよ?」


 父親はそう言うと、男の子は真剣に賽銭箱に5円玉を投げ入れた。


 父親が、男の子が投げやすいように抱え上げていたからか、5円は賽銭箱の真ん中あたりにしっかり入った。


 その様子を微笑みながら母親が見ていた。




 また、場面が変わった。

 場面は変わったが場所は同じ神社だ。

 

 父親と母親と男の子、そして今回はまだ小さい妹も居た。


「早く、お参り行くんだ。神様にご挨拶するんだ」


 そう言った男の子は一枚の5円玉を握り締めて、家族から離れて拝殿まで走る。


 賽銭箱の前まで到着した男の子。

 走ったからか息が切れている。


 夢の中だからだろうか?

 男の子以外は、人は誰も居ない。



 男の子は、いつものように、賽銭箱に狙いを定めて5円玉を投げた。



 だが……5円玉は賽銭箱の端の角にぶつかり跳ねて、どこかに飛んで行ってしまった。


 男の子の顔が歪んだ。


『神様、僕からの5円玉は、いらないの? 』

 男の子は呟き、呆然とした顔で賽銭箱をみつめた。

 そして、賽銭箱から背を向け、数歩足を進める。

 玉砂利は悲しそうな音を立てる。

『……僕は必要ないの? いらない子なの? お父さんもお母さんも僕は……』

 掌を力いっぱい握りしめた男の子、目元には涙が溜まっていた。

 



 何度も何度も、繰り返し、五円玉が賽銭箱に入らない場面がループのように繰り返された。



 こんな夢を見せられて、俺はどうすればいいんだ?


 どうやってあの子の心を救うと言うんだ。


 俺はどうしたらいいか分からなかったが、必死にもがいている男の子を見て画面に飛び込んだ。


 俺は男の子の5円玉が賽銭箱の外に落ちる度、拾って、男の子に届けた。


 初め、猫である俺が咥えた5円玉を見て、男の子がびっくりしていたが、男の子は俺から5円を受け取ると、もう一度、賽銭箱に5円玉を投げた。


 やはりうまく入らない。


 俺は自分に何ができるか分からず、だけど男の子を励ましたくて、男の子の投げた5円玉を、賽銭箱の角にあたり跳ね返って賽銭箱の外に落ちた5円玉を、何度も何度も拾い口に咥えて男の子に届けた。



 何回目の挑戦だっただろう。 

 男の子の額には汗がジンワリと浮かび、掌も泥だらけだ。

 入れ!

 俺も願いを込めた。

 そして、放物線をえがき5円玉は賽銭箱の中に。

 チャリン。

 静かな中に音が響いた。




『にゃ~ニャ―(お父さんもお母さんも妹さんも、神様も君の事が大事だよ。お兄ちゃんな君は一人でも色んなことが出来る様になったんだよ。家族を守る事だってできるようになったんだよ)』


 男の子に俺の声は聞こえない。俺は、ここに存在するだけ。


 俺は道に落ちていた花を咥えて男の子に渡した。


 花を受け取った男の子は柔らかく笑い、俺の頭を撫でた。



 満足げに笑った男の子。

 気が付くと男の子の周りには男の子の家族がいて、笑っていた。





 俺は再び画面の前に戻った。


 画面には神社の鳥居を家族4人でくぐっている場面が映る。


 男の子は妹の手を引いていて、その横で両親が微笑み、男の子もその妹も満面の笑みで笑っている。





 




 男の子、朝、起きたら笑ってるかな?

 俺も家族に、雪に会いたくなった……。




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