第59話 過去、あの日あった出来事① (雪視点)

 

 日々の平凡な日常。


 それは当たり前ではなくて、色々な事、相手に対して思いやりを持って生活し、それが少しずつ少しずつ積み重なって日常になっていく。




 私はそう思う。


 一度平和な日常を手放した私はその平凡な温かい日常をまた取り戻そうと必死だったと、そう思う。



 皆、それぞれ、沢山の繋がりを持っていて、私にも彼以外の繋がりもあるかもしれない。




 だけど、私の中で、彼の側じゃない日常は、そこは幸せな平和な日常じゃなくて......。



 もしも、彼がいないその日常が何不自由ない他人から見たら幸せそうな日常だとしても......。

 もし、彼の側での毎日が、すごく、すんごく大変な毎日だったとしても、私は彼の隣で笑える事が何よりも幸せだと、そう思っていたんだ。




 そしてやっと彼との平凡でくすぐったいくらい温かくて幸せな日常が手に入った。



 そう、思っていた。



 私が彼と一緒に、この一秒、一秒を過ごす事はすごく難しい事だったのに......。






 介護士である私は帰る時間もシフトによって違っていて、職人である辰君は、現場の進行状況で仕事の終了時間も違う。


 現場が遠い時は遅くなる日もあるし、逆に早くて三時や四時に仕事が終わる日もあったりする。



 私達は仲が良く、色々な事を、悩みも愚痴も全部話す。

 だから大きな喧嘩をする事もなかった。


 だけど、私には全部、全て包み隠さず話している様に見えていたとしても、辰君に隠していた大きな秘密があった。



 天然で何も考えてない様な、のほほんと生きている様に見える私には、きっとそんな過去があるなんて辰君は夢にも思っていないと思う。



 全部、辰君の前にいる私が、ありのままの私だと、辰君はそう思っていたと思う。




 私の大きな秘密。


 私はこの星の人物、生物ではない。



 認めたくなくても、この星の人物だと思いたくても、それは事実で......。



 この日、仕事が終わる時間が夜の十時で、自転車で通っていたその当時、なんだか、つけられている様な嫌な違和感を感じていた。



 その日仕事が早く終わって家にいた辰君に、数日前から感じていたその違和感の話をしていたからか、辰君が近くの公園まで、迎えに来てくれていた。




「雪」


 公園のベンチで座っていた辰君が私の自転車の音に気がついたのか、立ち上がってそう声をかけてくれた。



 今日も暑かったもんね?

 だけどもうお風呂も入ってきたのかな?

 さっぱりした顔してる。



「辰君、迎えに来てくれたの?」



 辰君はちょっと恥ずかしそうに下を向いた。


「流石にな、こんな時間だし、真っ暗だしな。あんな話を聞かされたんじゃな」


 そう言う辰君はぶっきらぼうに横を向いているけど暗くても頬が赤くなっているのが見える。



 心配してくれたんだね。



 そうやって歩き出したあの日。





 私はまだ、これからどんな事が起きるのか。


 この日常が崩されてしまうなんて思っていなかったんだ。



 

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