第65話 ミーの心をほぐしたい(ホロ視点)



 ゆっくり、ゆっくり、ミーの側まで俺は歩いた。


 あの夢と同じだ。

 だけど夢と違う事もある。


 まず、足触りが違う。

 ミーの側まで向かう間、フローリングの冷たさを肉球に感じた。


 匂いも、あの夢と違ってしっかりある。


 部屋もあの夢の部屋よりは明るい。



 感覚は夢を見る度にどんどん増していった事は確かなんだが、やはり現実に勝る程ではない。





 夢と違って今日のリビングの部屋はそんなには散らかっていなかった。


 まああの夢も散らかっていた訳でもないか、何というか荒れてはいなかった。




 ミーの目の前まで来た。

 ミーは、やはり、元気がなかった。


 目の色は綺麗なグリーン。

 鼻の横に1cm四方に丸く黒い毛が生えている。

 それがちょっと間抜けに見えて可愛らしい。


 少し顎はズレてはいるが毛も少し伸びて傷は分かりにくくなっている。


 ミーだ。


 目の前にあの、ミーが居る。


 ミー目はウツロの様に感じた。


 目の前まで俺が近くと、やっと、こちらに気がついた様だった。


 ゆっくりと、俺の方を見たミー。



「ニャーニャンニャ(こんにちは、ミーちゃん)」


「ニ、ニャンにゃァーン? ニャンニャ?(だ、誰、も、もしかして、私の、かわり? 私はもう、要らないの?)」


 ミーの声はとても、とても弱々しかった。


 消えてしまうのではないか?



 そう、錯覚してしまう程、切ない声だった。


 隅っこで、小刻みに震えていたミー。


 だけど、毛並みは綺麗だ。

 とても、とても愛情を感じられた。



「ナァーオンニャンニャ?(なんで、そんな風に思うんだ?)」



 俺の声にミーは更に自信なさげに声を出す。


「ニュンニャーニャンニーニ(私は、もう、こんな顔になってしまった。顎に上手く力が入らなくて、ご飯を食べるのにも時間がかかってしまう)」


 そうか、動物のお医者さんも時間がかかる。リハビリが必要と言っていたものな。



 だけど、夢の時より少し、状態が回復している気がする。


 先程も言ったが毛並みが綺麗なのだ。


 ミーの様子を見た感じでは、おばあさん自身、ミーに対しての接し方は変わっていない様に思う。




 この部屋やミーを見た感じだと、お嫁さんの精神状態が改善されたと言う事だろうか?


 俺は首を傾げた。





 その時、隣の部屋から大きな笑い声が響いた。


 雪とお嫁さん(麻沙子さん)の声だ。


 明るくはしゃいだ様に笑っている。




 そうか、プディが言っていたのはこう言う事か......。



 俺が解決しなくても、少しずつ解決の糸口は見つかる。


 俺は気負う必要は無いと言う事か?



 お嫁さんの様子の違いに驚く。


 と言ってもお嫁さんは隣の部屋に居るから表情までは見えない。


 だけど、声の感じが全然違う。





 身体や心が不自由な家族がいる場合、24時間介護が続く。

 疲労も半端ないと思う。


 それは本当に凄いストレスだよな?




 俺が見た夢はそれがありありと見てとれた。





 お嫁さんの声の後に、雪のノンビリした声が聞こえてくる。





 相談できたり、少しだけでも話を聞いて貰える相手ができるだけでも状況は変わったりするものかもしれないな。


 



 そう思いながらも震えているミーを見た。



 だけど、俺も、来た意味はあった。


 俺もミーの心をほぐしたい。


 ミーの目を見てなるべく優しく、ゆっくり声をかけた。


「ニュンニャーニャンニィーオ(ミー、ミーちゃんは、確かに傷はある。だけどな、目もすごく綺麗だし、毛並みも、今はこんなに綺麗だよ?)」



 『綺麗』その言葉にミーが反応した気がした。



「(ニャンニャニャーにゃーお)う、嘘よ。だっておばあさん。私を見てくれないもの。話しかけてくれないもの。私を気持ち悪いと思っているのよ。気休めは止めて)」



 やはりミーの心をほぐす事は難しいのか?


 ミーにとって俺は出会ったばかりだ。



 俺では無理か?



 心の中に踏み込みのは、ある程度の時間や信頼関係も必要だ。



 俺は途方にくれていた。



 その時、突然、頭の中で、猫の鳴き声が聞こえてきた。


 見た事のない猫の顔が浮かび、どういう事か分からず俺は気のせいだと、考えないようにしたが、その猫の表情はやけに切なく、頭の中に残る。



『ミー、ニャンミー、ニャンオナーア、ミー(ミー、また、来てしまった。ミーに逢えなくなって、どれくらい経つだろう。ミー、俺は目の前でミーが鉄の塊の早くて怖いモノに襲われたのを見た。車っていうやつに襲われたんだ。それ以来、ミーには逢えなくなった。ミー、夜、月を見ながら一緒に散歩をいつも、していたのに、ミー)』


 そう、頭の中に聞こえてきた。



 お、おい、おい。


 これは現実だぞ?



 俺は現実でも何かの能力が?




 この猫はなんだ?

 だけど、ミーと仲の良い、猫なのかもしれない。


 こ、こいつならミーの心を解せるのかもしれない。



 そして、目の前のソファーの奥にある窓の、さらに向こうにある塀の上に、俺の頭の中に浮かんだ、足だけが黒い白猫がいた。



 こいつのいる位置からは部屋の隅にいるミーは見えないよな。




 と言う事は、さっき聞こえて来たのはコイツの心の中の声か?




 俺は一体、ナニモノだ?


 プディは俺に何をした?




 でも、アイツとミーをなんとかして合わせる必要があるみたいだな。

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