第114話 俺は今でも......。 (ホロ視点)
気がつくと俺の身体は動けるようになっていた。
パチンと切れたみたいに一気に空間が動き出したんだ。
今まで時間が止まっていたのかなんて嘘だったんじゃないかそう思うくらいに。
試しに自分の右前足をペロリと舐めた後、動きが止まっていた皆の方向に目線を移した。
比奈も幸太郎も違和感に気付いていないのか分からないが、動きは自然だしスムーズだ。
デンも相変わらず暢気だし、さっきあんなすごい話をしていたのにプディはいつも通りクールですました顔をしている。
ど、どういうことだ?
あの状態で話が終わったとは思えない……。
途中から俺の思考も止まってしまったのか?
雪が入れていたパワーの抑制剤とか言うのがが効いたという事か?
というか雪とプディは一体、何と闘っているというんだ?
あの内容だけでは、俺の小さな脳みそではそれすらも分かっていない。
王がどうとか言っていたな。
そうそうその王はプディは父親というニュアンスだった。
プディ―がどこかの国の王女って言う事だ。
猫の国?
いや、猫ともまた違う様な……。
誰か説明してくれ! 俺は人の時もそんなに頭が良い方じゃなかったんだ……。
それに俺の事も辰也だと雪は認識していた。
どうして俺が辰也だと分かるんだ?
雪も実は宇宙人で俺の前世を察知する事が出来るという訳なのか?
訳が分からない。
雪の目が赤い。
そうだよな、やはりあれだけ泣いたんだ、黒目の周りの白目部分が赤いのも、目尻の皮膚の赤身もそんなに簡単に消えるはずないよな……。
比奈が案の定、雪の異変に気がついて声をかけていた。
雪も少し慌てながら笑顔を作っているが怪しすぎる。
「ん? えっと私、ちょっと風邪気味かも、もう帰りますね。
井川さん。
私もたまにココにホロちゃん達を触りに来て良いですか?
出来れば比奈ちゃんも居る時に」
そう言いながら、ゆっくりと雪が立ち上がった。
俺は雪が泣いたのを誤魔化そうと思っていると分かってはいたが、やはり心配で雪を目指して勢いよく走り出した。
もう雪が目前、いざ雪の胸に飛び込もうとしたが、俺は先程の話を聞かなかった事にしないとならない。
俺は雪に辰也だと気付かれていないと思っている。
ただの白い子猫だと雪は思っているという事にしなければならないということか?
なんかもう頭がこんがらがってきたが、とりあえずその場で子猫らしくコロンとお腹を出して横になり自分の腹を舐めた。
幸太郎と比奈が何か喋っている。
雪は俺を撫でながら「また来るね」そう言って立ち上がり比奈と一緒に出て行った。
まあ、雪や比奈の話だとこれからも比奈とプディはしょっちゅう家に来るし、雪も比奈が来るときに俺に会いにくるって事だよな?
だけど、俺がいない所で、雪が危ない事をしているのかもしれない。
あいつは不器用なんだ。
嘘も下手だし。
色々聞きたいが、プディも俺の側にはいないし......。
心配だ......。
雪?
俺はさ、雪になら迷惑かけられても良いんだけどな......。
雪は何から俺を守ってくれようとしているんだろう?
俺は、自分の顔の目の前に、右前足をゆっくり上げて、見つめた。
小さな前足だ。
俺も、こんな小さな、手ではなく、足になっちゃったけど......。
雪?
俺は......俺は今でも、お前の事を守りたいんだ。
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