第5話「転校生とペアを組むことになりました」

「だからゾンビ来るのは止めるべきなのさ」

「個人的には面白いからぜひ今度もやりたいんだけ――」


「だが、断る!」


 心底嫌なので、言ってる途中に差し込んでやった。


 その花咲に苦笑いを浮かべ、美沙がゲームの銃を置く。


「ですよね〜。次行こうか」

「そうしてくれると助かる」


 ――というわけで、最寄りのデパート二階。


 小物・アクセサリー売り場。


 美沙と遊ぶと必ずと言っていいほど訪れる定番スポット。


「いつものパターンだな」


「まだお小遣い前だからウィンドウショッピング」


「そろそろ昼だからな」


「うん。私もお腹減ったし、一時間くらいで切り上げるよ」


「う、うっす」


 せめて三十分にしてくれたら助かるんだけどね……。


 どっかフラフラしてようかな。


「近くにいなかったら迷子センターで館内放送してもらうから」


「鬼かお前っ」


 君は楽しいかもしれないけど、付き合う方は自分の欲しい物じゃない物を見て、時間を潰さなきゃいけないのをぜひとも覚えていただきたい。


「ボディガードボディガード」

「了解。離れません」

「くるしゅうないこうべを下げぃ」

「あげさせてくれ」

「仕方あるまい。よかろう」


 腰に手を当て、胸を張る美沙。ご立派なことで。


 とり肉でもいっぱい食ってるのかな?


「姫。なにを今回はお探しで?」


 いかんいかん。このままでは美沙の胸にばかり視線がいってしまう。


 バレたら口を利いてくれなくなるかもしれないから、陳列棚に目を移した。


「ピンどめとか。今日一日その調子でお願い」


「さすがに一日中は勘弁してくれ」


「え〜、どうしよっかな〜」


 楽しそうに美沙は、花咲のお願いを受け入れるか考える素振りを見せる。


 それを真に受けた彼は真面目な表情を浮かべ口を開いた。


「美沙が悪く見られるぞ。知り合いに姫呼ばわりしてもらってるって」


「冗談だよ?」


「冗談って分かるの俺だけだから」


「あ、そっか」


 眉をあげ、今気づいたと言わんばかり。


 美沙らしいといえば美沙らしいか。


「少しは先のことも考えろよな」

「うん、気をつける」


 頷き、ピンどめを物色している。


 返事もうわの空。聞いちゃいねぇ……。


「ねぇ、これ似合う?」


 美沙がそれを裏付けるかのように、自分の髪にピンどめをあてがい難しい質問をしてきた。


 オシャレに疎いやつに聞いても無意味だと毎回言ってんのに。


 答えないと昼食がどんどん遅くなるからそれらしいことは提示しておこう。


 それなら納得してくれる。


「美沙は青色よりオレンジ色が似合うと思うぞ」


「じゃあ、こっち?」


「あぁ、似合ってる」


「今度来たとき買お」


「俺出そうか?」


「え、いいのっ」


「その代わり昼飯代は出してくれ」


「あげて落とすのやめてよ」


 騙されなかったか。前回行ったときは罠にかかったのに。


 二度引っかかるほどではないらしい。あたかも得してる風に見せる作戦失敗でしたわ。


「だったら両方半分ずつ出そう?」


「俺そもそもゲーセンで使ってるからマイナスだから」


「チッ。分かったよ。今日ピンどめ買う」


「どっちに転んでも俺マイナスなのかっ」


 引っかかってたのは俺というね。


 びっくりした……。


「……」


 手にしてたピンどめを見つめている美沙。


 まぁなんだ。今日は全部もちますかね。


 前回出してもらったし。


「分かった」

「なにが?」

「ピンどめも昼もおごる」

「やったっ」

「そのピンどめでいいんだよな」

「うん!」


 大きく頷き、ピンどめを渡してくる美沙の笑顔が若干してやったり感出てたような気がするが、気のせいにしておこう。



 ☆ ☆ ☆



 買ったピンどめをつけた美沙が可愛く見えてしまってドキドキした昼食は、全額自分もちというのを思い出してそれはブルーな出来事として記憶されました。

 そして帰宅したらポストになんでも屋の求人広告が入っていたので、即電話して後日面接。


 結果合格で本日より人生初のアルバイトを体験する。


 放課後。いつも一緒に帰っていたのもあってかしばらく帰れないのを惜しむかのように分かれ道で二人は談笑していた。


「今日から初バイトか〜」


「ああ。何回このやり取りすんだよ」


「私もバイトしようかな」


「いいんじゃないか。好きな物小遣い気にしないで買えるぞ」


「バイトする!」


「そろそろ行くな」


「ごめんね。長々と」


「気にすんな。じゃあな、美沙」


「うん。また明日」


 ――ふぅ。なんとか間に合った。


 初日に遅刻とかどんなヤバいバイトよ。


 自転車を止め、風によってよれた服を整えていざ事務所へ!


「失礼します。今日から働かさ……高林!?」


「……」


 所内に入り、挨拶をしてる最中莉音奈が視界に入って驚きをあらわにする花咲。


 どうして高林はびっくりしてないっ。


 瞬きニ回ってどゆこと? 俺がオーバーリアクションしてるみたいじゃないかな。


「あら、早いわね」


 リアクションの差に不満を抱く花咲を気にせず、どこからか四十代の女性が笑顔で接近してくる。

 あーっ。どこかで見たことあるなと面接の時思ってたら高林か。目がソックリだ。


「莉音奈。ワンツーマンで今日からペアを組みなさい」


「……」


 母親からの命を受け、静かに花咲の隣にやってくる莉音奈。


 うわ、いい匂いした。というか、ペアッ。


 こういうのって大人数で行くんじゃないの?


「よ、よろしく」

「ついてきて」

「分かった」

「行ってらっしゃい」


 高林母に見送られ、事務所を出て自転車で高林のあとをついていくこと数分。


 とある一軒家で足を地面につけた。


「ここ」

「庭が広いな」


 二軒ぐらい入りそうな感じ。こんな庭つき欲しいわ。


「元農家」

「なるほど」

「あら、高林さん」


 どこから出てきたのかおばあちゃんがゆっくりとやってきた。


 手にはカマ二つとビニール袋。


 なんというかビニール袋見えてなかったらアンバランスな組み合わせだな。


「こんにちは」


「すまないね。この歳になると草むしりとか大変で」


「いえ、お構いなく」


「ふふっ。じゃあ、お願いね」


「かしこまりました」


 カマとビニール袋を受け取り、頭を下げる莉音奈に笑みを浮かべ、家へ向かっていくおばあちゃんを花咲が目で追っていると、彼女が彼の二の腕辺りをトントンと叩いた。


 それに花咲は視線を莉音奈に移す。


「草を束ねて根の方を持ってそこをカマで刈る」


「おお、了解」


 実演を受け、カマをもらって早速やってみる。これならいっぱい刈れるわ。


「高林は何歳からこの仕事手伝ってるんだ?」


「八歳」


「マジかっ。凄いな」


「ほとんどなにもしてない。ちゃんとやりだしたのは高校入ってから」


「なるほど。じゃあ、仕事の内容的なレベルはそこまで大差無いんだな」


「……」


「草取りって疲れるな」


「……うん……」


「特に腰と足がヤバい」


 結構前から腰が悲鳴をあげてるんだよね。


 ちょんって肩突かれたら後ろに倒れる自信がある。


「刈った草……クマ手で集めて……ビニールに入れて」


「助かる。そうさせてもら――」


「んにゃ!?」


「ど、どした!?」

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